二階のバルコニーから、セトは月を見上げている。

真冬の冷たい風に黒いマントを揺らし、彼は微動だにしない。


「寒いってば‥。」

月明かりに照らされた彼の横顔に、あたしは不満を投げ掛けた。


セトにさらわれて、今夜で三度目の夜‥

あと四日経てば、ホントに帰らせてくれるのかな‥?


そんなことを考えながら、あたしは屋敷の周辺を見渡した。


向かい側にあるはずのカラオケ店も、道路さえも見えない。

人工の明かりひとつ無い空間に、この建物はあった。


人間界ではない別世界。

庭から夜空を見上げた時にも感じた違和感が、あたしの中に戻って来た。