「いやだ。ごめんなさい。私ったら、てっきり……」


『てっきり』絵里花が変質者に襲われてると勘違いしてしまったのだろう。いくら絵里花が見立てた洋服に身を包んでいるとは言え、史明は分厚いビン底メガネをかけている。〝変質者〟と間違われても無理がないくらい、誰がどう見ても怪しかった。


「いえ、あの……、邪魔して悪かったわね。それじや、私はこれで……」


ばつの悪くなった橋本さんは、そそくさとその場からいなくなった。


二人きりになれても、今さらこの場でラブシーンを再開する雰囲気ではなくなってしまった。絵里花がチラリと史明の様子を確かめても、それこそ分厚いレンズに阻まれて、その感情も思考も窺い知ることはできなかった。


「……『変態野郎』か……。やっぱりこのメガネがネックなんだな……」


キスしているところを目撃された恥ずかしさに動じるよりも、冷静に自己分析している史明がなんだか面白くて、絵里花は思わず笑いを漏らした。史明が絵里花に視線を合わせる。

街灯のやわらかな明かりに照らしだされ、絵里花を見つめてくれている史明。このメガネをかけた史明でさえも、絵里花はもう〝怪しい〟なんて思わなかった。どんな史明さえも、かけがえがなくてとても愛しかった。