彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜




「それじゃ、今日はここで。送ってくださって、ありがとうございました」


丁寧に頭を下げる絵里花を見つめて、史明は自分を納得させるように一つ頷いた。


「うん、じゃ、また明日」


短く告げると、背を向けて歩き出す史明。少しずつ遠くなっていく後ろ姿を、絵里花はその場にたたずんで見送った。

史明を見つめながら、言いようのない切なさがこみ上げてきて、それを押しとどめるのに必死になった。


――だって、相手は岩城さんよ?私が想像するみたいに、とんとん拍子に進展するはずないじゃない……。


少なくとも、クリスマスなんて意識にもなかった史明が、今日はちゃんとしたデートをしてくれた。ここまで送ってくれたことだって、奇跡みたいなものだ。

そう思ってみても、絵里花の満たされない気持ちは慰められなくて、寂しさのあまり涙が滲んでくる。


――だけど、せめて……。姿が見えなくなるまで……。


切ない胸の疼きに耐えながら、絵里花はジッと夜陰に紛れていく史明の姿を見つめ続けた。


すると、その時、史明の動きが止まった。止まったかと思うと、回れ右をして速足で絵里花の方へ戻ってきている。


――え?どういうこと……?


思い直して、やっぱり絵里花のマンションで〝お茶〟をすることにしたのだろうか?でも、変に期待をしてしまうと、違った時の喪失感が怖い。