彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜




絵里花が戻ってくれば、自ずと真相は分かる。彼らの驚く様を思い描いて、史明は心の中で笑いを噛み殺した。
崇の疑問には答えることなく、そのままカウンターへと向き直り、そこに足りなかった百円玉を置いた。


するとその時、店の奥の方から穏やかでないやり取りが聞こえてくる。


「すみません。本当に結構です。私には連れがいますので」


強い口調のその言葉は響き渡り、店内の誰もが思わず注目した。


「あれって、絵里花じゃないか?」


崇のつぶやきを聞いて史明は目を凝らしたが、いかんせん裸眼の視力では、どこでイザコザが起きているのかさえも分からない。

一方の崇は、反射的に動き出した。


「じゃあ、連れの人も一緒でいいからさ。お姉さんみたいな美人に会えたなんて、ほんとに運命だよ!一杯奢りたいんだよ。ねえ、お願いだからさ〜」


絵里花の腕を掴んでいるのは、中年の男。このお洒落なバーには似つかわしくないほど、みっともなく酔っ払っている。


「何してるんですか?その手を離してください!」


その場に駆けつけた崇は、そう言いながらすかさず絵里花と中年男の間に割って入る。


「崇くん!?」


絵里花は目を丸くして、目の前に現れた崇を見上げた。訳が分からず、素っ頓狂な声を出してしまう。