足元に落ちた百円玉は転がっていって、ちょうど今店に入って来たお客の足にぶつかって止まった。
「…す、すみません。失礼しました」
史明は動揺して上ずった心のまま、百円玉を拾い上げてくれている女性に声をかける。そして、その女性が百円玉を手渡してくれるとき、お互いの顔をチラリと見て、
「……あっ!」
と同時に声を上げた。
目の悪い史明にも、さすがに相手が誰か判別できた。それは紛れもなく、先ほどのレストランで出会った今日子に違いなかった。
今日子の方は、史明の常軌を逸した麗しい容貌に驚いたのだろう。息を呑んで、視線を動かせないでいる。どうやら、目の前にいるこの男が、先ほどレストランにいた絵里花の彼氏だとは思いもよらないらしい。
「ありがとうございます」
史明がほのかに笑みを浮かべると、その表情に魅入られた今日子は固まったまま、みるみる顔を真っ赤に変化させた。
その変化を読み取って、史明は逆に冷静になった。自分に見惚れている今日子に向かって、言葉を続ける。
「前にも、お会いしましたね」
つい数時間前に会っているのだから、嘘はついていない。だけど史明の言葉は、まるでナンパの常套句のように今日子には聞こえた。



