その言葉を聞いて、絵里花は少しがっかりする。元はと言えば、今日子に一矢報いたいと思ってきた場所だけど、思いのほか楽しい時間が過ごせた。その時間がもう終わってしまうなんて。
でも、まだここに居座る理由が見つけられなくて、絵里花はしょうがなく頷いた。
「その前に、ちょっとお手洗いへ行ってきます」
史明も頷いて応えると、絵里花は優雅な動きで高い椅子からスルリと降り、店の奥へと向かった。
「お会計をお願いします」
史明は先ほどのバーテンダーに声をかけた。
バーテンダーは小さなメモ用紙を史明に差し出した。史明がそこに書いてある金額を確かめて、ポケットから財布を取り出すと、その場をつなぐようにバーテンダーは史明に話しかけた。
「この後は場所を変えてお楽しみですか?」
「……この後?」
すっかり帰るつもりだった史明は、首を傾げた。
「そりゃ、今日はクリスマスイブですから、二人で甘い夜を過ごすんでしょう?」
「え?甘い夜……?!」
『甘い夜』とはどういうものか。それを想像してしまった史明は思わず動揺してしまい、
「……あっ!」
財布から取り出していた小銭が手につかず、ポロリと落としてしまった。



