彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜




チラリと史明を振り返ってみても、史明は古文書へと視線を戻して、その古紙の向こう側にある数百年の時のかなたを探るのに夢中になっている。

そんなとても純粋な史明の姿を見て、絵里花の胸がキュンと鳴った。脇目も振らず研究に取り組む史明も、絵里花はとても好きだった。あんな史明を見ていると、どんな犠牲も厭わず少しでも力になりたいと思う。
絵里花が目録カードをめくって、目的の古文書を探し始めると、収蔵庫の中にはまた静寂が漂った。


それからまた数時間が経ち、三時の休憩も終わり、終業時刻も迫ってきた。絵里花はにわかに焦り始め、そわそわして何も手に付かなくなった。
何か手を打たないと、何もないまま今日という日は普通の日として過ぎ去ってしまう。このまま史明が絵里花の変化に気づいてくれるのを、ただ待っているわけにはいかない。


絵里花は意を決して、息を吸い込んだ。


「岩城さん」

「うん?」


定時になっても、史明は古文書を見つめたまま帰ろうとする気配はない。


「今日、何か変わったこと、ありませんでしたか?」

「うん。さっき言った梶川氏に関することが少し気になったくらいだな」


史明の意識もその視線と一緒で、古文書から離れる気配はない。