彼がメガネを外したら…。 〜彼女の証〜




会話という会話はなく、黙々と作業をすること数時間。


「……望月さん」


やっと史明が声をかけてきた。


――来た……!!


絵里花は内心小躍りしながら「はい」と答え、目をあげて居住まいを整えた。


「君が整理した古庄家文書の中に、〝梶川氏〟に関するものがあった?」

「………え?」


二度目の肩透かしに遭って、絵里花の目が点になる。


「梶川氏だ。梶川氏も鎌倉期からある家で、隣り合う楡崎氏とはずっと覇権争いをしているんだが、古庄家の文書の中にちらほら出てきてるみたいなんだ」


説明してくれている史明に、絵里花はジッと視線を定めて見つめてみる。けれども、絵里花のこんな行為の意味を解さない史明は、イラっとして眉間に皺を寄せた。


「あったのか、なかったのか。聞いてるんだけど?」


不機嫌そうな声に変化したことに気がついて、絵里花は焦って意識を古文書の方へ戻す。


「……そう言えば、二、三日前に数通ほど目にしたような気がします。探してみますか?」

「うん。それと、これから読む分で見つけたら、目録を取った後に摘出しておいて」

「はい」


絵里花は短く返事をしながら席を立って、整理をした古文書の目録カードを置いてある場所へ向かった。