「……あれ?」
絵里花は思わず声をあげた。
意気込んできたものの、肝心の史明がいないなんて……。もしかして、出張の仕事が入っていたのだろうか……。そんな思いがめぐる間、絵里花は立ちすくんでしまう。
「おい。なにをボーっと、突っ立ってるんだ?」
突然、背後から不意打ちされて、絵里花は内心跳びあがった。振り返ると、いつもと変わらない風貌の史明がいた。
「……あ!お、おはようございます」
「おはよう」
挨拶を交わしながら、史明はチラリと絵里花へと視線を投げてくれたが、そのまま言葉もなくテーブルへと向かい、椅子を引いて腰掛ける。
「……あ、あれ?」
なんの反応も示さない史明に、絵里花は拍子抜けしてしまう。
――……ちゃんと見えなかったのかな……?
そう思って、少なからず落胆している自分を慰めようとしたけれど、先ほど背後に立っていた史明が気がつかないはずはない……。
釈然としない気持ちを抱えつつ、絵里花は首をかしげながら史明の向かいに座った。
話題を持ち出す、きっかけがなかったからかもしれない……。そう思うことにして、仕事を始めた。



