――なにか、決め手になるきっかけがほしい……!
そう考えながら、礼子からのレクチャーを何度も頭の中でおさらいする。
そして、クリスマスイブの前の日になって、絵里花は髪を切ることを考え付いた。
「……こんな綺麗な髪、本当にいいんですか?」
「はい。ひと思いに、バッサリ切っちゃってください!」
そんな言葉の通り、胸まである艶やかな栗色の髪を、肩にも届かないいボブスタイルにしてしまった。
「失恋でもしたんですか?」
カットクロスを外してくれている美容師が、冗談めかしてそう言った。『失恋』と聞いて、絵里花は気色ばんで言葉を詰まらせた。その様子に、美容師は誤解したらしく、『しまった…!』という気配をその表情に浮かべた。
――失恋だなんて、冗談じゃない…!
ヘアサロンを出て夜の道を歩きながら、絵里花は不吉な言葉を吹き飛ばした。
ここまで変化すると、さすがの史明も気がついてくれるに違いない。気づいてくれたからといって、そこからデートに漕ぎつけられる保証はないけれど、少しでも目を向けてくれたら、興味を持ってくれたら……、ずっと話はしやすくなる。
髪が軽くなったら、悩みで凝り固まっていた心も軽くなって、なんだかとても旨くいくような気がした。



