――『俺は、キリシタン(※)じゃない』……って言われそう……。
師走の夜の冷たい空気の中で立ちすくむ絵里花の姿。その艶やかな様は道行く人の目を引いたが、絵里花本人はレストランの温かい灯りしか目に入っていなかった。
クリスマスには、あのレストランで史明と食事がしたい。この願望は、そのまま絵里花の決意になった。
けれども、普通の職場なら、こうやって密室に二人きりになれる好条件なんてあり得ないのに、絵里花はそれをうまく生かせなかった。
他の男を魅了する絵里花の可憐でありながら美麗な容姿も、史明にはあまり意味のないもので、古文書に向かう史明にはやっぱり取り付く島がない。頭がよく、分厚いレンズに表情を隠して感情も表さない史明に対して、絵里花は〝駆け引き〟をする勇気なんてなかった。
そうしている間にも時間はどんどん過ぎていき、クリスマスが迫ってくる。
クリスマスなんて意識しなければ、なんでもない普通の日にすぎない……。そう思って妥協することもできたかもしれないけれど、やっぱりその日を独りで過ごすのは、去年以上の虚しさを感じてしまうだろう。
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※ キリシタン…元々はポルトガル語で「キリスト教徒」の意味。日本の戦国時代・江戸時代、明治の初めごろまで使われていた言葉。



