前の彼氏の崇と付き合っていたときには、クリスマスは大切にしていたイベントだった。毎年お互いのことを思い合って、プレゼントを選んで贈り合う。レストランで食事をして、一緒の夜を過ごした。
今はもう、崇のことは何とも思っていないけれど、クリスマスの思い出はどれも楽しくて、幸せに満たされていた。
去年の絵里花は、その崇と別れた直後だった。あの別れには清々しささえ感じていたので、そんな自分の境遇を〝寂しい〟とも思わなかった。
だけど、今はどうだろう。崇とはまるで違う次元で好きになった史明と想いが通じ合えたはずなのに、絵里花の心はこんなにも寂しさを感じている。
――岩城さんを好きでいるのは、根性がいるなぁ……。
史明は崇みたいに、称賛を湯水のように与えてくれないし、日常的に愛情も示してくれない。
史明にとって、何よりも愛するものは歴史に関するもので、彼が古文書に向き合うとき、そこに恋愛感情なんて介在させない。
……でも、そんなことは初めから分かりきっていた。分かった上で、絵里花は史明に恋をした。
だから、絵里花にとって何よりも大事なのは、史明を想い続けられること。彼の側に居られること。厳しい言葉が浴びせられるのも、側にいて関わりが持てているからこそだ。



