そんな懇切丁寧な礼子のレクチャーを思い出す。そして、絵里花は満を持して、テーブルに手をついて立ち上がった。
収蔵庫の奥へ行き、未整理の古文書が入れられているコンテナを棚から引っ張り下ろしながら、わざとらしく史明に声をかけた。


「あ!わわっ!!……岩城さん、助けてくださいっ!」


さすがに、その緊迫した声は史明の耳にも届いたようだ。すぐさま鉛筆を置くと、史明は席を立って絵里花の元へ駆けつけてきた。そして、コンテナの重さに耐えかねてよろめいている絵里花を見て、血相を変える。


「危ないじゃないか……!」


史明はそう言うや否や、絵里花の背中越しに腕を伸ばして、棚から落ちそうになっているコンテナを支えた。
絵里花の髪に、史明の息がかかる。史明をドキッとさせるどころか、絵里花の胸の方が高鳴ってしまう。

けれども、その高鳴りをグッと堪えて、絵里花は思い切ってもっとよろけてみせた。


「……!?ちょっ!!……うわっ!」


史明にしては珍しく、焦った声が出る。と同時に、絵里花を抱き止めた史明の手が、肝心のコンテナを離れてしまう……。