史明にとっての絵里花は、どんな存在なのか。
何ものにも代えがたい愛しい恋人なのか、それとも研究を手伝ってくれているだけの助手なのか。そもそも、あのキスの意味は何だったのか……。

それらの疑問を確かめてみたいけれど、収蔵庫の中でこうやって古文書を読んでいる限り、いっこうに(らち)が明かない。

絵里花は悶々としながら、テーブルの向かいに座って(うつむ)く、史明の顔をジッと見つめた。
こんなに近くにいるのに、触れ合うことなど全くない。それどころか、目を合わせることもほとんどなく、会話だって一日にほんの数回するだけ。古文書に向き合っている史明は、本当に取り付く島もない。


絵里花が礼子からいろいろと知恵を授けてもらっても、それを実行に移すことがなかなかできず、あの日から随分時間が経ってしまっていた。


――岩城さんにどんなふうに思われているか…を確かめるよりも、要するにドキッとさせなきゃダメなのよ。


そうやって混とんとする思考の中から、一番大事なところだけを意識した。


『いつもベタベタくっ付いてないんなら、思い切って近づいてみるのも手よ?人にはパーソナルスペースって言うのがあってね?その中に踏み込めた場合、もちろん女もドキッとするけど、男の方がドキッとして〝その気〟になるものなのよ』