そんな心の揺れを映しているように、絵里花の瞳に涙がうっすらと滲んだ。
礼子は、そんな絵里花の様子を見つめ続けて、軽く息を漏らした。


「もちろん、そんな悪どい人じゃないと思いたい。絵里花のことを『好きだ』っていう想いも、少なからずあるのかもしれない。だけど、古文書を前にすると、それを忘れてしまうというか……。絵里花に対するよりも、古文書に対する思いの方が深いのかもね」


礼子の意見はとても厳しいものだったけれど、絵里花は史明の日常を思い出してみて、それは〝現実〟を言い当てているかもしれないと思った。

それでは、史明にとっての絵里花の存在意義はなんなのだろう?
それを考え始めると、本当に自分が(みじ)めに思えてきて悲しくなってくる。


でも、礼子は急に明るい表情になった。唇を噛んで涙を堪える絵里花の悲嘆を、事もなげに笑い飛ばした。


「絵里花。落ち込むのは、まだ早いよ。相手をドキッとさせるのは、相手が彼氏だろうがなかろうが、関係ないから」

「……えっ……?」


絵里花はまた目を丸くして、礼子を見つめた。


「絵里花のこと、ちゃんと好きになってもらってないんなら、これから夢中にさせればいいだけの話よ」