ちょうどその頃、絵里花の胸も、ようやく打ち明ける準備が整った。
「あのね。……彼氏。出来た……と思う」
その一言を聞いて、礼子の表情がニンマリと緩んだ。
「へえぇ~。やっぱ隅に置けないねぇ。それで、今度はどんな人?」
「同じ職場の人なの。一緒に古文書読んでる」
「じゃ、研究者?だったら、頭は良いわね」
「……東大、出てるらしい」
「ええっ!!とうだいぃ?!」
礼子は丸くした目で絵里花を凝視し、素っ頓狂な声を出す。その声は響き渡り、絵里花は居酒屋中の視線を浴びてしまった。
でも、礼子はそんなことはお構いなしに、興奮し始める。
「東大出身の人って、私、会ったことない!そんな頭の良すぎる人って、気難しいんじゃない?どんな話するの?」
想定していた質問攻めに、絵里花は恥ずかしそうにはにかんで見せた。どんな惚気話が出てくるのか、礼子も前のめりになる。
「……うん。気難しいのかな?普段は古文書ばかり読んでるから、作業に没頭してて話はしないし。話すとしても、頭の中は日本史のことばかりだから、歴史の話ばかりしてるし。ちょっとでも古文書を粗末に扱うと、怒鳴られるの」



