出張も来客もない、何にもない退屈なだけの午後。日の光も外気も入ってこない収蔵庫の中には、睡魔という厄介者が忍び寄る。
欠伸(あくび)を噛み殺すと、涙が滲み出てくる。古文書を解読する鉛筆の動きが止まり、目は虚ろに何もないところを漂い始める。

この睡魔に魅入られてしまうと、いくら史明とは言え、その心にある古文書に対する〝愛〟さえも薄らいでいくらしい。


でも、絵里花はこの時を待っていた。同じく眠気を帯びながらも、その瞬間のために、目を閉じてしまわないように必死で睡魔を追い払う。

パタッと音を立てて、史明がテーブルの上に鉛筆を置いた。


――……来た……!!


絵里花は鉛筆を握りしめて、息を殺して、目の前で起こる現象のすべてを逃さないように、意識を集中させて〝その時〟に備える。


史明は椅子の背もたれに身を預け、両腕を上げて伸びをする。そして……、


「……この時間は、どうも集中力が途切れてしまうな」


と言いながら椅子から立ち上がり、収蔵庫の奥へと足を運ぶ。


――……あれ?それだけ?……メガネ、外さないの?


一日に一回あるかないかの貴重な機会。心待ちにしていたのに、その期待が見事に裏切られ、絵里花はガッカリする。