「心を入れ替えて一から」

名門ドルセット伯爵家の紅茶商会を経営するグラン・ラグレーンと当伯爵の息女エリーゼの婚約式が一八◯◯年七月六日に行われた。驚くべき身分違いの関係であるが、伯爵令嬢によるひとめぼれだと令嬢自身が語っている。
ラグレーンは去年の秋に赦免されたが、心を入れ替えて一からやり直していくとの決意のもと伯爵家の商会を任されていた。その折で令嬢の心を射止めたと思われる。正式な婚礼の日取りは発表されていないが、この一年以内には行うとの事。この婚礼は国中をめぐって話題となることだろう。

一八◯◯年七月七日『クラヴィエ』紙より







あらすじ


ある舞踏会の夜、伯爵令嬢エリーゼは牢獄から出たばかりの男グランが復讐のため人を殺そうとしていたのをすんでのところで止め、人生をやり直すよう説得し互いの本性を知る友人となる。その後グランがエリーゼの屋敷を訪れると、彼女の兄に伯爵家の商会を運営しないかと提案される。グランは迷いながらもそれを受け入れ、伯爵家の兄妹に支えられながら仕事に専念し、信頼の大切さを知る。その後仕事のために王都の舞踏会を訪れ、貴族らに罪人であったことを指摘され屈辱を与えられるが、笑い者になっていたグランを助けたのはエリーゼだった。この夜を機に、二人の心境は急速に変化していく。エリーゼの父、伯爵は二人の仲を知ると激高するが、グランが改心したことを知ると、彼が条件を満たせば許すと提示する。その後も伯爵家が破産したという嘘をついてグランの心を試そうとするが、彼のエリーゼへの思いはゆるぎなく、伯爵はとうとう正式に二人の仲を認める。