“で、昼間、奴から電話あってさ、片岡さんに何かあったようだから同僚問い詰めろって、それで気になることがあったからヤツを脅かしたら……ま、こういうことだね。その際にさ、埜上がね、やる気あるんだったら料理仕込みたいんだって。片岡さんのこと気に入ったみたいだな。たく、辞める前提で話進めやがった。あいつ、女性に関しては厳しいとこあるんだけど、片岡さんにはどこか違うんだよなー、因みにヤツ、フリー、あ、これ余計だった„



私は店長の話を、電話なのにうんうん頷きながら聞いていた。何故か、目の回りが潤んでいた。



私を気にかけてくれた埜上さん。昔から大ファンだったんだよ。突然何も語らずたったひとつの作品を残して美術の世界に二度と姿を現さなくなった憧れの人。



そんな私の王子様が奇跡のように私の前に現れ、見えないふりして毎日見ていてくれていた。



それだけでも滅茶苦茶嬉しかった。



そうだ、人生にチャンスは滅多にその姿を匂わさないらしい。その数少ない瞬間を逃さなかった人がビッグな現象を手にすると何かの雑誌で読んだことがある。



今がその……



そして勢い、きっと店長は電話を耳から遠ざけているであろう大きな声で私は言った。



「店長!私、今からお店行きます!今後のこと、店長に相談したいので、いいですか!?」



店長の返事を待たずに私はスマホを閉じ、服を着替えにベッドから飛び降りた。





(了)