俺にとっては一晩の夢くらいの感覚だった。

…夢?

「薫は?」

「それが薫ちゃんね、来ないの」

「来ないって?」

「最初の1週間は凌牙につきっきりで、どんどん痩せてくし、私も心配してたんだけど。それからは1度も」

「悪い。意味分かんねえ~」

「私にもよく分からないんだけど、最後に『こんな彼女でごめんなさい、絶対戻ってきますから』って泣きながらそればっかりで」

「はあ~」

「これ、目が覚めたら凌牙にって」

母さんはそう言うと、引き出しから手紙を出して俺に渡した。

「凌牙に何が起きても連絡しないでって。自分で確かめに来るからって。だから私も何も聞けなかったの」

そう言って母さんは病室から出て行った。