何もないはずなのに、

何かがひっかかる。

「凌牙っ!」

女が泣き声で俺を呼んでいる。

何だよ?

母さんじゃねえ。

「…凌牙っ」

この声…

いつも聞いてた気がする。

うざいぐらいにいつも呼ばれてた。

「凌牙っ」

頭の中に女の笑顔が浮かぶ。

事故の時にも浮かんだ女の顔。



ああ、…薫っ。