「探しにきたし」

「…んッ」

薫がまた顔を伏せて泣き出した。

「酒飲んでねえのも知ってるし、俺ずっと見てたから」

「うん…ッ」

「何で泣いてんだよ」

そう言って頭を撫でた。

薫は落ち着くと、『トラウマ』について話し出した。

「高校3年の夏、ちょうど去年の今頃、体育祭の打ち上げで、クラスのみんなとキャンプに行ったの。
夜になってトランプをしたいってみんなが言い出したから、テントに取りに戻ったときだった。酔っ払いの大学生がきて私を自分たちの集っている場所に無理矢理連れて行こうとした。もちろんクラスの人に向かって助けを呼んだけど、盛り上がっていて誰も聞いてくれなかった。どうにかで逃げきったけど、誰も私の話を聞こうとしなかった。そのあとひとりで家に帰った。誰もそれには気付かなかったんだ」

「何だよそれ」

「私、あの大学生の人たちのこととか、そんなの覚えてないの。ただ、助けを呼んだ時のみんなの盛り上がってる顔とか、声とか思い出すと頭が割れそうになる」