「あの子、ひとりで入って来たんだな」

紘が突然言い出す。

「は?」

「女ってさ、誰かと吊るんでないとってダメって感じだからさ、珍しいなと思って」

まあ、確かに。

あいつはどう見ても根暗に見えないし、不思議だとは思った。

俺がベンチで休んでると、ちょうどそいつも休憩しに来た。

「お前さ、ひとり?」

「へ?」

いきなり話し掛けられて驚いたのか、素っ頓狂な声で聞き返して来た。

「ダチとかと一緒じゃねえの?」

「あ~、うん」

「へえ~」

「周りにテニスしたい人居なかったし、それに…」

「それに?」

「自分だけの場所って欲しくない?」

そう笑って言ってコートに戻って行った。

何かすげえって思った。

しっかりと自分を持ってる奴だと思った。

もしかすると俺はもうこの時から、あいつが気になってたのかも知れない。