「…李那。」
李那の荷物を持って後ろからついて行く俺。
今、李那の感情としては悔しさがあるだろう。
「…今日なら…だいじょ、ぶ…だと…おもって…」
「うん。」
「…みんなと、…笑い合いたくて…」
「うん。」
「ずっと…笑ってたかった…みんな、に…こんな顔させたく…なかった…」
心の底から悔しいんだろう。
俺だって同じだ。
久しぶりに学校に来たんだから笑わせてあげたかった…
「だけど…」
「うん。」
「みんなに会えた…だけでも…嬉しいよ…?」
李那の体は震えていて、呼吸もままならない。
「落ち着け、蒼空。」
裕さんが俺を見て少し睨む。
…取り乱しそうになってたんだ、俺。
「…大丈夫です。」
…今は、俺じゃない。
俺が取り乱したらダメだ。
「李那、息吸えるか?」
「…うう、ん…すえ、ない…」
顔が青くなってきてる李那。
「だったら吸おうとしてみろ。
深く、ゆっくりでいいから。」
裕さんはもう、慣れてるんだ。
呼吸困難になった時の李那に。
悔しさ、なんて俺が持ってはいけない。
だって俺が李那好きでも、もっと李那が好きな人がいるから…
「…ふっ…うぅ…」
李那は苦しそうに息を吸ってる。
…白かった顔が少しだけ、戻ってきた気がする。
裕さんが、李那を1番に思ってるんだ。
俺が李那を想うなんて100年早い。
【更科蒼空side END】

【如月李那side】
…苦しくてしょうがない。
息が吸えなくて、目がチカチカしてくる。
「…ふ、ぅ…」
裕くんが背中をさすったりしてくれてる。
…大丈夫、怖くない。
だって裕くんがついてるもん。
今死んでも怖くない。
みんないるもん。
大切な、私の友達。
「李那、大丈夫か?」
「うん、もう平気。ごめん、取り乱して。」
「大丈夫。」
「今日学校に来たのは、これが最後だから。」
…本当は辞めたくなかった。
でも辞めなきゃダメなんだ。
「…え?」
「あ、まだ死ぬとかそういうのじゃないよ。
学校を辞めるって意味。」
昨日、お母さんやお父さんと相談して決めた。
私は学校を辞める。
そのために今日来たんだ。
途中参加なのも、校長室によってたから。
退学届けを提出してたんだ。
「…辞め、るの?」
「…海澪…」
「ねぇ、どうして。」
「このまま続けてても今日みたいに呼吸困難になる時あるから怖くて。」
…これが本心かと言われたら全く違う。
むしろ逆だ。
まだまだみんなと、笑っていたかったの。
「…嘘だ。」
「…」
「李那、嘘ついてる。」
…あーあ、海澪にも分かっちゃうのかあ…
「…本心なの?」
本心なわけないじゃない。
ホントはまだ海澪や蒼空達と笑っていたかったよ。
「私にもわかる」
…沙良?
「…さすがに私でも…」
茉希まで…
ねぇ、なんでそんなにみんなエスパーなの?
…なんでみんなそんなに悲しそうなの?
「私たちは…李那とすごしてきた時間は短いけど…分かるよ…李那。」
茉希は鈍感なのに…
こういう時の変に鋭いのすごいよ…
「「本心じゃないよね?」」
…もぉやだあ…
なんでこんなに鋭いの…?
「…本心だよ!」
私は笑顔で茉希や沙良の方をむく。
笑ってても本心見抜かれてそうで怖いんだもん。
「李那…」
「じゃあ、そういうことで、今日で、さよなら。」
…あーあ、ちゃんと高校卒業して大学行きたかったなあ…
「じゃあねえ〜」
私は蒼空からカバンを返してもらい、1人で学校の廊下を歩く。
教科書とかは置いてく。
いらないから。
これからは通信制の高校に行くつもりだ。
…パソコンを通じて。
「…」
暫く家に向かって歩いているけど…
…やだ。
本当は辞めたくない。
…裕くん…
「…うぅっ…う〜…」
「李那。」
後ろから多分裕くんの声。
「…なあに?」
振り返らずそのまま前を向いて歩いていく。
「…」
裕くんは後ろからぎゅうって抱きしめてくれる。
「…やっぱり1人で泣いてた。」
…追いかけてきてくれたのかな?
こんなに…みんなを悲しませてる私が、心配される筋合いあるのかな?
「…俺、追いかけれなかったんだよな。」
「え?」
「俺を追いかけるよう促してくれたのは蒼空だよ。」
…蒼空…
いつもなんだかんだ言いながら私のパシリしてくれたり優しかったなあ。
「海澪ちゃんも、俺を押してくれた。」
…海澪も…?
「茉希ちゃんや沙良ちゃんも、俺に早く行けって。言ってくれたから、今追いつけたんだよ。」