【更科蒼空side】
李那が目覚めなくなって1週間と少し。
李那はまだ目覚めない。
何故目覚めてくれないのか。
「…裕さん…少し休んだ方が…」
「大丈夫だ。」
裕さんは走り続ける。
その顔は疲れきっててロクに休んでないことがわかる。
放課後の練習を見るのを日課にしてた俺。
李那がいないグラウンドは先輩も後輩もなんだかつまらなさそうに見える。
李那はもう陸上部じゃないのに走ってる姿がもう当たり前になっていたから。
ーブーッブーッ…
…電話?
「もしもし?」
『蒼空っ!裕くんもそこにいる?!』
「…いるけど?」
電話の主は海澪だった。
なんだか焦っているようにも取れる。
『裕くんにかわって』
「うん…?
…裕さん、海澪からです。」
俺は裕さんに携帯を渡し、隣で裕さんの顔を見ていた。
「…うん…うん、…え?!」
電話越しだから何を言っているかは分からない。
だけど裕さんのこの喜びよう、は…一体…
「ほんとに?!
…よかった…
うん、今から行くよ。」
裕さんは俺に携帯を返し、部室棟に向かって猛ダッシュした。
俺にカバンを預けて。
多分この中には制服が入っていると思う。
なかなか軽いから。
「行くぞ!蒼空!」
「え?」
「ほら、早く!」
裕さんは軽い方のカバンを俺に持たせたまま猛ダッシュ。
さすが長距離エース…
走る速さが全然違う。

「ー李那!」
ノックもなしに裕さんは病室に入っていく。
その後ろをゼーゼーいいながら俺が入る。
「…よっ!」

…李那を見た俺は呆然と立ち尽くしていた。
だって、李那が…
普通に笑ってて普通に話しているから…
「え、李那?」
「…?そだよ?」
思わず俺は李那の頬をつねりに行く。
「?!いひゃいいひゃい!」
同時にもう片方の手で自分の頬もつねる。
…痛い。
「ひゃにひゅんのひょ!ひょら!」
李那は涙目で痛みを訴えてくる。
「…李那だ…」
「いったいなあ、もう!」
…いつもの、あの明るい李那だ…
李那は俺の手を握った。
「生きてますよ。」
ふわりと笑うと李那は俺の腕を引っ張って頭をわしゃわしゃする。
…良かった、いつもの李那だ…