暗黙の了解みたいにパンジーが添えられていく。
「裕くん来てたんだ。」
「おう。」
「どこいったのかと思ってた。
まさか蒼空とデートしてたとは。」
俺は思わず飲んでいたアイスティーを吹き出してしまった。
現在いるところは基地の近くのカフェ。
俺と李那と裕さんで移動した。
「李那来ないと思ってた。」
「来るよ。お姉ちゃんのだもん。」
李那は強い眼差しで応える。
自分の誕生日に死んだ姉…
悲しくてしょうがないだろう。
「李那…」
「なーに?蒼空」
「…」
李那はずっと笑顔で俺に向かっておしぼりを投げつける。
なんかこの行動が怖い。
すごく怖い。
「裕くんがまさか浮気してるとは…」
浮気?
「いやいや、待てよ李那。蒼空とは浮気してない。」
「…」
李那は裕さんをじとーっと見つめる。
「…ホントだって…」
裕さんは苦笑しながら俺に助けを求める。
「ホントだよ、李那。裕さんを疑わないの。」
俺は知らなかったんだ。
まさか、この二人の間に小さな窪みがあったことなんて。
その小さな窪みが李那も、裕さん自身も、不安にさせていることなんて。
俺は気づきもしなかったんだ。
【更科蒼空side END】

【中矢裕side】
「ホントだよ、李那。裕さんを疑わないの。」
蒼空は知ってるはずがない。
俺と李那と家族しか知らない俺の過失を。
“浮気”
俺の、過失だ。
李那とは3年半の付き合いになる。
その間に俺は…浮気をしてしまっていたんだ。
あれは確か、中2の秋…だったかな。
部活で後輩を持ったんだ。
その学年のマドンナみたいなかわいい女の子を。
既に李那とは付き合っていたし、当然浮気なんて考えもしてなかった。
……最初は。
事が始まったのはその子からの強烈なアプローチ。
俺は長距離エースだったし、幅跳びでもかなり飛べるからその子の憧れか何かだったんだろうなと思っていた。
だけどその子は必要以上に俺にボディタッチをしてきていたし、俺の居残り練習にも付き合うようになっていた。
練習終わりに…雨が降った。
びしょ濡れになった俺は急いで帰ろうと走り出す準備をしていた…
その時にその子に迫られてしまった。
強引にキスされ、俺がバランスを崩して押し倒す形になってしまっていた。