「表では霊狼が捕まえたとしか言ってないので…」
まあ、霊狼本人だけどね。
「感謝状は送れませんが、これ、我々の感謝の気持ちです。
治療費に使ってください。」
渡されたのはずっしりとした封筒…
恐らくお金だと思う。
「いいです!」
焦って私とお母さんは押し返す。
「いや、これは我々の気持ちだ。
…どうか受け取ってほしい。」
「…そんな…」
こんな大金受け取れないよ…
「治療費に。薬代に。
使ってほしいんだ。」
…治療費とか、薬代とか言われると。
本当は欲しいよ。
でも…こればかりはお母さんが…
「李那を思って下さるのは嬉しいです。
ですが…これは受け取れません。」
「…お母様…」
「これだけは…もったいないです…」
お母さん…
泣いてる…
「…李那の病は…治らないので…」
…んね。
治らないんだ。
いくらお金くれても、治らないの。
未だに治療法すら分かってないから。
「治らない…まだ知名度も低いと思います。」
…多分ALSについて知ってる人少ないんじゃないかな?
誰でもいい。
誰でもいいからALSの事を世間に伝えて欲しい。

…その日の夜。
私は裕くんとベランダで話した。
特に他愛のない話を。
「へえ、あの通り魔捕まえたの霊狼だったんだ。」
「そー。」
「俺に内緒で?動き回ったと…」
裕くんはあからさまにしょげる。
多分私が単独で動いたことに対して拗ねてるんだ。
あからさますぎて笑えてくるわ。
ーピロン♪
…ん?
誰?
「李那、見てきたら?」
「いいんじゃない?急用だったら連続でなるでしょ。」
…この時の私は後悔している。
なんであの時携帯をすぐに見なかったんだろうって。
まさか夜にあんなことになるなんて。
思ってもいなかったから。