「あの噂の…」
「そう。分かったらどっかいって、目障り。」
ピシャリとトドメの1発。
結構効くと思うの。
こいつお豆腐みたいなメンタルだから。
すぐに壊れてしまうような、そんな感じのメンタル。
「…蒼空くん、大会一緒に行こ?」
「何回も言わすな、行かねぇって言ってんじゃねぇかよ。」
蒼空が何回も行かないって言ってるんだから諦めろデブ。
「…そっか…蒼空くん…」
「さっさとどっか行ってくれ、目障りだ。」
「…」
今度こそ睨みながら言うと井上世莉香は背中を丸めてどっかいった。
あんなのが背中丸めたところでも小さくならないあたり笑える。
「…李那あなた…」
「ごめんね、びっくりさせちゃったよね。」
わたしは蒼空と海澪に頭を下げた。
「さっき言った通り私は霊狼。」
向き直ると私は2人に説明する。
お姉ちゃんが死んでからは自分が霊狼になったこと。
病気のことが分かってから陸上同様やめたこと。
だから霊狼は伝説として語られてるらしい事。
「そうだったのね…李那、喧嘩出来たんだね…」
「俺も同感。
ヤンキーには見えないよな。」
蒼空は私をジロジロ見てくる。
「やかましー!これでも喧嘩できてたんだい!」
あえて何もつっこまないのが私たち。
海澪も蒼空も何も突っ込まない。
だから私たちはいいんだ。
「なあどうする?
陸上の大会行く?」
蒼空が私たちに向き合ったその時、放送がなった。
『高等部2年生、如月李那さん。至急小宮の所まで。』
…私?
しかも、小宮?
「なんだろ…行ってくる。」
私は2人に言い残して職員室までダッシュした。

ーガラガラ…
「失礼します。」
「如月!ここだ!」
「…はい…?」
小宮先生に呼ばれてその場まで行くと何やら人を囲んでいるらしい。
近くまで行くとよくわかった。
「如月、頼みがあるんだ。」
…この囲まれてる子、骨折してる。
しかも…
短距離と高飛びの子だ。
「お前は部活辞めたのに頼むのは筋違いだと思う。だけどお前以外思いつかないんだ。」
「…」
「如月先輩、すみません…私からもお願いしたいです。」
「…」
要はこの子の代わりに私が陸上の大会に出るってことだ。
「この間の体育祭でも見た。お前の走りは。
全然スピードも落ちてない。頼めるのは元短距離エースのお前だけなんだ!」
…この子が…
恐らく私に頼もうと言ったんだろう。
「…少し、考えさせてください。
なるべくいい返事を返したいと思います。」
これ以上、陸上部の全員がいる前で喋りたくない。
裕くんもいるし…
「わかった。なるべく早めに頼む。」
「分かりました。」
小宮先生は陸上部の顧問だ。
あの子の足は恐らく複雑骨折。
大会は来週。
絶対完治はしない。
だから緊急で私なんだろう。
「…はああ…」
私はポケットから携帯を取り出し、お母さんに電話をかけた。
「…」
コール音が3回。
ピッタリ3回でお母さんは電話に出てくれた。