「…えっ、知ってたの?」
「李那から聞いてました。」
裕くんは戸惑って私と蒼空を交互に見比べる。
「李那は…私と蒼空に全て言ってくれてました。自分は難病を抱えていると…」
海澪も既に涙を流しながら裕くんを見る。
「お互い知らなかったもんね。
裕くんも海澪も蒼空も、ごめんね。
謝って済むことじゃないけど、私の今から言うことをよく聞いてほしい。」
…我ながらよく喋ったと思う。
私こんなに長く一気に話さないから。
「…私、結構分かるんだ。
もう自分は長くないなって…
体の自由がだんだん効かなくなって行っているのが分かるの。」
「そんな…っ…」
裕くんは私の手を握りしめる。
今の私の体はその裕くんの手を握り返す力はない。
だって今現在動かないから。
「だから、裕くんに言いたいことがある。」
私は今。
この手を自分から離すことを決意した。

「裕くん、ごめん、別れよう?」

まさかこの手を。
この笑顔を。
自分から手放すなんて思ってもいなかった。
ましてやこの間一緒にお祭り楽しんだばかりだったのに。
「…え?」
「「李那?!」」
蒼空と海澪はあんた何言ってるの?!みたいな顔してる。
裕くんは放心していて、私の言葉に絶句している。
「この先何があっても私は裕くんを幸せにすることなんて出来ない。」
「…」
「裕くんを手放すことなんて今まで考えられなかったけど、私はALS。
こんな病気の私のそばで裕くんが幸せになれるなんて思えない。」
ごめん、裕くん。
ごめん、ごめん、ごめん、ごめん。
こんな女で。
こんな薄情者で。
裕くんは私の言葉が信じられないのか未だに目は疑っている。
“それは本心なのか?”って。
だから私は今からきつい言葉を裕くんに浴びせる。
「…だって私そこまで裕くんの事好きじゃなかったし。」
ごめん、嘘。
大好き。
「裕くんだって私のこと好きじゃないでしょ?」
…誰より裕くんの愛を知ってる。
裕くんがどれほど私が好きか。
「それに単なる幼馴染だから、仲良くしてただけでしょ?」
嘘だよ。
ほんとにずっと大好きだったよ。
「…李那。」
「…」
「お前がそんなこと思ってたなんて知らなかった。」
裕くんの視線が。
冷たい視線が。
離された裕くんの手が。
段々離れていく裕くんの温もりが。
痛くて、ピリピリする。
裕くんのこんな顔知らない。
とても冷たい、何もかも捨てるような顔。
裕くんでも、こんな顔するんだね。