どんな思いで見てるのか、俺にも分かる。
悔しいんだ。
体が動かなくなっていくことへのイライラ。
李那はのほほんとした見た目とは裏腹にめちゃくちゃ短気だから。
「ねえ裕くん。」
「ん?」
李那は俺を見てニヤリと笑った。
これは…嫌な予感が…

「お出かけいこう。」

嫌な予感は見事に的中。
余程病室が退屈なんだろう。
李那は静かに車椅子に移動した。
いつもなら暴れてしょうがないのに。
李那は車椅子が大嫌いだ。
1度、車椅子に乗ってコケているから。
「んー!やっぱり外はいいね!」
ここは病院の中庭。
森の中みたいに木が生い茂っていて気持ちいい。
「まあ、戻ったら投薬が待ってるんだけどさ。」
それでも少しでも外にいたいんだろう。
外にいたい…と言うより走り回りたい、と言った方が正しいかもしれない。
この子は大人しくすることよりはしゃぐのが好きだから。
「そういえば今日ってお祭りだったんでしょ?」
「ん?あー、そうだったね。」
「行かないの?」
行きたいよ。
とは言わなかった。
だって誰よりも行きたいのは俺の目の前に居るから。
俺は李那の前に回り込んでしゃがみ込む。
「李那と一緒じゃなきゃ行かないよ。」
「…そっか。」
「うん。だって、李那と一緒に行かないとつまらないじゃん。」
これは事実だ。
もちろん、李那が入院してる中、自分一人だけ楽しむっていう発想はない。
「裕くん優しいね。」
李那は俺の目を見てふわりと笑う。
この笑顔。
この笑顔が見れたらそれでいい。
「最近さ、投薬の副作用で体重たいし、肌荒れてきたんだよね…」
確かにこのごろの李那は普通の生活も辛そうだ。
肌も荒れてきているような気がする。
それでも笑顔を絶やさない李那はすごいと思う。
「今からでもいいから行きたいなあ…」
「医師に交渉しにく?」
「うん。」
俺は李那の車椅子を押して李那の主治医のところまで行く。
ーガラガラ…
「先生、います?」
「おやおや、李那ちゃんと裕くんか。どうした?」
李那の主治医。
ここの院長でもある。
「お出かけ行きたいから許可だして。」
「…お願いします。
せめて今日の夜まで。」
「…」
上から李那、俺、先生だ。
せめて夜まででもいい。
李那と祭りに行きたい。
連れて行ってあげたい。