「李那!」
綺麗な海澪の声。

「李那。」
少し低くなって頼もしくなった蒼空の声。

「李那ちゃん。」
一時は恨んだこともあったけど大事な海澪の旦那の声。

「李那」
誰より大切な人の声。
裕くん。私を選んでくれてありがとう。
感謝してもしきれられないほど、愛してます。

「ママ!!」
愛しい愛しい息子。
産まれてきてくれて本当にありがとう。
叶夢。
名前の通り夢を叶えてね。

大切な人達に囲まれて私は幸せです。
皆に見守ってもらえながら…
天に行けるのですから。
【如月李那side END】

【中矢裕side】
俺の背中でぐったりしたまま話さなくなった彼女。
「李那?」
「…」
呼びかけても返事がない。
返事がないどころか…呼吸、してなくない?
「…ごめん、海澪ちゃん、叶夢頼む!
叶夢!海澪ちゃん達の言うこと聞くんだぞ!」
「…え?!パパ?!」
俺は慌てて病院に駆け戻る。
医者が待ってた、とでも言うように俺の前に出た。
「…こちらへ。
彼女はここへ。」
静かに病院のベッドに李那を降ろす。
するりと李那の腕は解けた。
「…一体、どういうことですか。」
…李那は最近呼吸器を付けていなかった。
「彼女の、望みだったんだ。
“1日でいいから、外に行きたい。”とね。
最近の彼女、呼吸器を付けていなかったろう?
…それは、こういう事だったんだ。」
…訳、わかんねぇよ。
李那…
「彼女は、病院で、より皆に囲まれた状態で…
というのが彼女の望みだったんだ。
…如月さんらしいね。」
…確かに…李那らしいや…
「燕の巣。」
「は?」
「僕にはなんのことか分からないけど、彼女からの伝言でこの言葉を預かってるよ。」
…燕の巣。
俺と李那しか知らない暗号のようなものだ。
恐らく、燕の巣の作られた窓の部屋…
李那の部屋に何かがあるんだろう。
「家で、確認しておいで。」
「…はい…」
「とりあえず如月さんは1度病室に入れておくから。」
…李那…っ
泣くのを精一杯我慢して俺はマンションへ向かう。
李那の部屋。
机の上。
普通に置かれた白い封筒。
…李那の字だ。
静かに便箋を開く。
読みづらいけど、読めないわけじゃない。
1枚で書ききれなかったのか、数枚にわたって手紙は続いていた。