【如月李那side】
「ママ!」
「…なあに…」
「これ見て、庭に咲いてた!」
17歳の時に叶夢を産んで5年。
5歳になった叶夢。
22歳になった私。

腕が動かなくなった。
声も出にくくなった。
完全に体は動かなくなってしまった。
それでも私は生きる。
叶夢という希望があるから生きられる。

「李那〜!」
…誰かな。
「…海澪…」
表情筋のきかなくなってきている顔で精一杯笑顔を作る。
「李那、元気そうだね。」
私は裕くんにおぶられて近くの公園に散歩に来ていた。
秀一と海澪も結婚して子供も生まれている。
女の子。
名前は、希望。
のぞみ。
いい名前。
叶夢、希望。
希望はまだ2歳になったばかり。
海澪は短大を卒業して結婚した。
近くのマンションで暮らしている。
私と裕くんも同じマンションで家族3人で仲良く暮らしている。
「なんだよ。みんな早くね?」
…やっぱりキミは遅いよね。
いつも遅刻ギリギリ。
「蒼空おじさん!」
…ふっ…ふふっ…
おじさん…
「…俺、おじさんなの?」
まあ…ね?
おじさんと言われたらおじさん…
「…ゆるしてあげて…」
「わーってるよ。」
「おじっ」
「ん?」
希望も蒼空を見つけて歩いている。
蒼空の隣には黒田先輩。
卒業しても仲良いのに変わりはないんだなあ…
…まあ、仲悪いよりマシか。
「李那、元気そうでよかった。」
蒼空は私の頭を撫でると子どもたちの遊び相手となる。
…蒼空は保育士となった。
…あの蒼空が。
似合わなさ過ぎて違和感しか感じないけど、保育士。
「ママー!」
叶夢は私のところに何かを持ってきた。
「…どうしたの?」
「クローバー見つけたよ!四つ葉!」
…幸福。
叶夢に幸福が訪れてくれたら嬉しいなあ。
「李那。」
「…裕、くん」
大切な人。
感じてるよ。裕くんの体温。
暖かくて落ち着く。
もう人生を諦めるなんてことはしない。
私なりに精一杯生きるんだ。
「…ほら、また見つけたらしいぞ。」
「…ほんと。…本当に幸せくるかもね。」
裕くんはクスッと笑う。
「俺は凄いしあわせだけどなあ…」
「…どうして?」
「大好きな嫁さんが居て、愛しい息子が居て、友達にも恵まれてる。
これ以上の幸せってあるか?」
…それがきっと一般的な幸せだと思うよ。
私も、幸せだよ。
裕くんが居て、周りに大事な友達がいて、息子もいる。
裕くんとだから乗り越えられたこともある。