誰か来てるのかなと思って家に入ったら…
大きな靴が2つ。
裕くんも不思議そうにしながら私を家用の車椅子に移動させてくれる。
リビングに入った瞬間、納得した。
ぎこちないスーツ。
整えられた髪。
なんでここに居るのか教えて欲しい。
なんでこの2人がうちにいるのか。
「加藤先輩…」
「黒田先輩も…」
「「よっ」」
私の家のリビングでカーペットに胡座で座り、叶夢と戯れる黒田先輩。
「ぱあー!」
「おう、叶夢。」
「まあー!」
私と裕くんを見た瞬間嬉しそうに笑顔になる叶夢。
「ちっ、やっぱり親には勝てねぇか。」
黒田先輩が心底拗ねた様子で私たちを見る。
「どうしたんですか?」
「いや、普通に家の前通ったから。」
…暇人なの?
なんでスーツなのか。
普通にこの人たち就職したんじゃなかったっけ?
「俺は普通に会社行ってた帰りなんだけどよお…」
加藤先輩が黒田先輩を睨みながら愚痴を零す。
お母さんは苦笑しながら夕飯の支度を始めた。
「李那、ここより部屋でしたら?
これから美那とお父さんも帰ってくるから。
夕飯はみんなで食べましょ。」
「いいんですか?!」
「ご馳走様です!」
…この先輩らウチで食べてくき満々だったじゃん…
食費浮かせやがったな…
私は先輩らを先に部屋に行かせて裕くんにあげてもらう。
「いつもごめんね、裕くん…」
「気にすんなよ。」
部屋まで押してもらって部屋に入る。
先輩達も勝手知ったる状態だ。
「お待たせしましたー」
「オー。」
「聞いてくれよー」
加藤先輩は愚痴を言いたくて仕方ないらしい。
黒田先輩は逆にけたけたわらってる。
…何があったんでしょうねえ…
「慎吾がよ、就職したのに辞めたんだよ、こいつ!」
…は?
「どういうことですか?」
「同じ場所に就職したのに辞めたんだよ、こいつ。」
…呆れる言葉しか出ないのは私だけかな?
確かに黒田先輩は自由人でマイペースな人だけど…
こんな感じにさっくりやめる人じゃない。
なにか理由があったはずだ。
「…黒田先輩。」
「俺さあ…何事も長続きしないんだよなあ…」
「知ってます。」
そういう所は私たちがカバーしてきたつもりだ。
陸上のことでは。
「だから、…っ」
やっぱりなにかあったんだろうな…
「加藤先輩、何があったんですか?」
「…まあ、最近ちょっと失敗続きでさ…」
少し挫折しかけてるのかな…
「上司にも恵まれなくて慎吾は1人悩んでて…」
「…」
それがいけなかったんじゃ…
「黒田先輩…なんで相談しなかったんですか…」
「…晃也の邪魔したくなかったから…」