「…なあ、先生。」
「…」
「なんで、風雅と美那ちゃんがあんなに怪我してるの?」
「…話せば長くなる、だが、2人がいつも選ばれることによってほかの選手を不快にさせてしまっていたようだ。
かつての“君たち”のように。」
…君たち…
俺と李那のことを言っているんだろうな、きっと。
「でも君たちは、ほかの選手からの羨望もあったからそんな大きなことにはならなかった。
風雅くんと美那ちゃんはまだ入って…言うてまだ1年ほどしか経ってない。」
…キャリアの違いか。
俺ら、私たちの方が長くやってるのに…
みたいな。
才能がある、だけで毎回選ばれるなんてムカつく。
…とまあそんな感じだろう。
「どうせ大会に出るなら優勝したい。
だから彼女たちにしたのに…」
期待の星だったんだな。
「これから当事者の子の家に行ってくる。
なんでこんなことをしたのか洗いざらい話してもらうよ。」
うん、それがいい。
何故、が知りたいのは風雅だけじゃない。
その家族もだ。
あの陸上教室でそんな事件はあってはならないのに…
「…兄貴、先生。」
「風雅」
宮野先生は風雅に向かって頭を下げた。
「今、僕にできることはこれだけしかない。
僕の目が届いていないところであんなことがおこっていたなんて考えたくもなかった。…起こってしまった事の解決に努めたいと思う。
風雅くん、済まなかった。」
「頭上げてくださいよ!」
風雅は慌てて先生の元に駆け寄る。
「俺はただ、美那を守りたかっただけですから!」
「美那ちゃん?」
「あいつが元々やられてたから俺が割って入ったんだよ。美那を傷つけられるくらいなら俺がやられた方がいい。」
…なんだ風雅、カッコイイな。
どさくさに紛れて惚気んな。
「…それでも…」
「いいか、先生。俺はいい。
なんで美那があんな目に合わなければならなかったのか、それだけ聞いてきてくれ。」
美那ちゃんを守るため、か…
俺も李那を守るために強くならなきゃなあ…
「…分かった。裕くん、風雅くん、本当に済まなかった。」
再度頭を下げる先生。
風雅は強い目で念押し。
「頼む、先生。」
「分かった。」
先生は何度も頭を下げて家を出て行った。
【中矢裕side END】