難病が教えてくれたこと

「子どもは?」
「新生児室だよ。」
丁度前を通ったから、探す。
「あっ…あの子?」
「そう。」
“如月李那様”
プレートには李那の名前。
「男の子だったよ。」
男の子…
あんなに可愛いのに…
「裕くんに似てたらかっこよくなるね。」
ニコニコ嬉しそうに見つめる李那。
車椅子にこそ乗っているが少し興奮して話しているだけで息が上がってる。
「はあ…はあ…じゃあ…行こうか。」
…車椅子を押す手に力が入る。
まだ、ここにいる李那。
生きるために頑張っている李那。
「着いた〜」
「あ、如月さんいた!あ、それと西宮良夜さんの弟さんだね?」
「げ、医者」
「如何にも。」
李那は車椅子からベッドに移動し、横になる。
息が上がっていてつかれているのがわかる。
「あちらの医者から連絡は貰ってます。向こうの病院に転院ということで…」
「あの…兄がすみません…迷惑をお掛けしました…」
「はっはっ、患者はね、迷惑かけてなんぼだと僕は思ってるよ。」
李那の主治医でもあるこのドクター。
フレンドリーで親しみやすい人だ。
この人じゃなかったらきっと、李那は生きる希望を失っていたと思う。
「ありがとうございます、兄のことはこれからしっかり見張るつもりです。」
ニカッといい笑顔の良斗さん。
俺に手を振ると静かに病室を出て行った。
「じゃあ僕も戻るよ。如月さん、あんまり無理しちゃダメだよ。」
「分かってる。」
ちらりと医者に目を向けると李那は柔らかく微笑む。
医者が出ていくのを確認して李那は話し始める。
「…ほんと、産むの怖かったよ。」
「うん。」
「でも、頑張った」
「うん。」
「途中、意識なかったんだ。
体力の限界きてさ、気づいたら産まれてた。」
思い出すかのように目を細める李那。
「李那。」
「ん?」
「産んでくれてありがとう。大事に育てていこうな。」
「ふふっ」
ニコニコ嬉しそうに微笑んで李那は大きく頷いた。
「最近過保護なところ多いからウチは厳しく育てようか。強く逞しく。」
確かに、最近多いな。
どこに行っても過保護で何ひとつとしてやらせないような、そんな家庭。
「名前、何にする?」
突如、起き上がった李那は俺の顔を覗き込む。
「裕くんがパパだから、名前決めて?」
「…俺?」
大変な思いをして産んだのは李那なのに…
傍にもいなかった俺が名前決めていいのか?
「決めるっていうか、候補として?」
こてん、と顔を傾ける李那に笑いを浮かべる。
「じゃあ…」
「うん。」
優しく微笑んで俺を見つめる。
真っ直ぐな瞳を俺も真っ直ぐに見つめる。

「叶夢。夢を叶えるって書いてかなめ。」

ずっと考えてた。
李那は夢、叶ったのか、よく分からない。
だけど、子どもには夢を叶えて欲しい。
叶夢。
そんな思いを乗せて大切に育てていきたい。