難病が教えてくれたこと

やっぱり居た。
「森の外へ出ましょう。このままでは危険です。」
単純に3日は飲まず食わずの状態だ。
脱水は勿論だろう。
救急車を呼び、森の外へ。
西宮家に呼び、外で待機。
直ぐに運ばれて行った良夜さん。
ープルルルルルルルル…
「…出ないのか?」
「出ます、すみません。」
相手は李那。
「はい。」
『裕くん!いない時にごめんなさいね…
子ども、産まれたよ…』
「えぇ?!」
『昨日、陣痛感覚短くなってきて、今日、産まれたの!』
電話の相手は李那本人ではなかったが、電話の向こうの李那のお母さんが喜んでいるのが伝わってくる。
「…あ、あぁ、良かった…無事なんですね。」
『母子ともに健康よ。忙しいのにごめんね。帰ってきたら顔みてあげて。』
「わかりました。報告ありがとうございますっ…」
電話を切る。
「彼女か?」
「そうですね。子ども生まれたらしいです。」
「はあ?!」
「ですが、この状態で帰れるわけがないのでしばらくは居ます。」
今の良斗さんを置いて帰れない。
せっかく見つけた良夜さん。
その良夜さんがあんな状態だったんだ。
不安でいっぱいだろう。
…この感情は痛いほど知っている。
李那の目が覚めてほしいと願っていた俺。
その時の感情だから…よく分かる。
だから、少しでも状態が落ち着いてから帰った方がいいだろう。

…どれくらいそばにいたのか、分からない。
もう夜だ。
病院に緊急搬送された良夜さん。
付き添いの良斗さん、俺。
「…兄貴…」
かなり、深刻な状態だ。
意識がない。
ガンも治ってないのに弱っている状態で地元まで帰ってきた良夜さん。
「…」
「裕」
「はい。」
「終電、逃したろ。泊まってけ、ウチに。」
良斗さんは荷物を持って立ち上がる。
俺に微笑みを浮かべ、車へ向かう。
「ウチ、親基本いねえから兄弟で暮らしてんだよ。
部屋は腐るほどあるし、何ら困らねえ。」
この人は口は悪いけど優しい人だ。
見知らぬ俺の為に布団を敷いてくれた。
部屋着もお借りしてしまった。
「メシ、どうする?簡単なものしか作れないんだが。」
…確かに、簡単なものだな、それ。
…カップ麺。
「…冷蔵庫、拝見していいですか?」
「おう。」
…食材は揃ってるな。
だったらカップ麺じゃなく、焼きそばでも作るか。
本当に簡単なものなんだが。
「焼きそば作りますね。」
「料理出来んのか?」
「彼女に教えてもらいました。」
あの子はなんでもそつなくこなすから。
特に得意不得意はないらしいがお菓子作りだけは苦手らしい。