やはり診断書と薬か。
「ガンはもう亡くなったと思っていたんだが。そうでもなかったらしい。
この書き置きと共にあった。」
“すまない。帰ってくる。その時に全て叱りは受ける。今は放っておいてくれ。”
確かに、良夜さんの字だ。
「確信したよ。良夜のガンはまだ治ってないんだと。寧ろ病院抜け出してきたんだな、と直感でな。」
ご名答だな。
良夜さんはまだ退院してない。
李那の泣きそうな顔を見たらそんなの分かる。
「その通りですよ。抜け出してるんです。良夜さんは。」
「やはりな。行先の目処は着いてるんだ。来るか?」
「は?」
「ん?着いてくるか?ちょうど行こうと思ってたんだわ。」
「あ、はい。」
「荷物置いてっていいぞ。大きなやつは。」
お言葉に甘えて大きいボストンバッグを下ろす。
斜めのバッグだけ持って良斗さんのあとを追う。

「…なあ、お前、彼女いるんだよな?」
「…はい。」
「その彼女、なんかの病気か?」
「そうですね。治らない病です。」
「…そうか。それでもそばにいたいんだな。」
良斗さんは少し目を細めて俺を見る。
車はお高そうな…
サングラスもブランドもの。
ほんとに金持ちなんだなあ…
「お、見えてきたぞ。良夜の彼女の家だ。」
「あれが…」
見えてきたのは普通の一軒家。
裕福でも貧乏でもなさそうなごく普通の家だ。
「坊主、名前聞いていいか?」
「中矢、裕です。高校生です。」
「裕な。覚えた。」
良斗さんはタバコを揉み消し、車を停めた。
「おし、聞いてくるから待ってろ。呼びに来るから。」
「はい」
車から降りるとインターホンを押し、しばらく待っている。
中から身重な女性が出てきた。
…多分良夜さんの彼女さんだろう。
窓も閉まっているからどんな話をしているのかは分からないが彼女さんの表情は驚いている。
軽く手を上げると良斗さんは車に戻ってきた。
「いなかったわ。」
「え?」
「ここを尋ねてきたのが三日前らしい。そこからウチにも帰ってねぇし、ここにもいねぇ。」
西宮家からここまでは車で10分弱。
遠くもない。
まあ、道沿いに森があった。
…ことくらいしか…
「…森?」
「どうした。」
「…念の為、森、行ってみませんか?」
「…分かった。」
森は西宮家から歩いて3分ほど。
俺が歩いてきた道にあった。
車を車庫に戻してから、森に入った。
「良夜さん…どこだ…」
「なあ?裕、これ、なんだ?」
良斗さんの足元を見ると獣道に赤い点が…
それは点々と森の奥まで続いている。
「手掛かりになりそうですね。行ってみますか。」
「怖くねぇのか?」
「はは、彼女の方が怖いので大丈夫です。」
お化け屋敷とかホラーゲームやホラー映画で散々こういうのは慣らされた。
慎重に、血痕の後を辿る。
少し森が拓けてきた…
その先に人が倒れているのが見える。
「おい!兄貴!」
「良夜さん!」