虚ろな目をした覇気のない顔。
「なんだ?」
極力明るく話しかける。
笑顔と明るい声。
効果は殆どないと思う。
それでもやらないよりマシだ…
「…て」
「ん?」
李那の顔は今までに見たことないくらい暗くて。
初めて見たその顔はゾッとするくらい綺麗だった。
「私を殺して。」
李那は俺の目をはっきり見つめてそう言った。
はたから見たら普通に会話してるだけに見えるような顔だ。
先程の暗い顔ではなく、いつもの李那の無表情だ。
「…は?」
今、李那なんて言った?
“私を殺して”?
…なんで…?
「生きていてももう楽しみなんてないし、それだったらもういっその事殺して。」
ふざけている訳では無い。
李那は大真面目だ。
だけどそんな言葉、俺が聞けるわけないじゃん。
俺、単細胞でバカでしょっちゅう李那を怒らせたりしてるけど。
その言葉を聞ける、事は絶対ない。
「…裕くん。」
「…」
「裕くんってさ、私に何を求めてる?」
李那に?
「今、死のうとしたから言うけど、私のお腹に赤ちゃん、いるんだって…」
…え?
赤ちゃん?
「“あの時”から全く生理来てなくて、診てもらったら、今妊娠5ヶ月なんだって。」
…あと5ヶ月もしたら生まれるのか…
「私、子育てとかできる自信ないよ…?」
「今は、考えなくていい。
子どものことは、李那の親にも相談だ…」
「お母さん…産むべきって…
ALSの人でも子育ては可能だからって…」
1人で、抱え込んできたんだな。
「李那の好きなようにしな。
俺は、李那の考えを尊重するから。
でも子どもの命も考えてあげてくれよ?」
李那は下を向いて考え込む。
「…そんなの、私だって考えてる。
中絶するにしてももう大きいから、費用もかかるっ…これ以上お母さん達に迷惑かけたくない…」
…もう、答え出てるんだろ?本当は。
素直に言えない天邪鬼だな。
「費用とかのことは、おいといて。
俺が聞きたいのは李那の気持ちだよ?」
「私の…?」
静かに目線を俺に合わせた李那。
大粒の涙がもう李那の気持ちを代弁してる。
「そう。もう答え、出てるんだろ?」
「…わ、私は…」
「うん。」
李那は更に大粒の涙を流す。
自分の手でお腹を包む。

「…この子、…っ産んであげたい…っ」

ほらやっぱり。
李那は他の命を無駄にしない子だから。
この答えだってことは分かってた。
「でももし、産んで、育てたとしても、私の病気が原因でいじめられたら…?」
「俺も、フォローするよ。
できる限り李那にも子どもにも負担かけないように。頑張るから。」
李那の顔がだんだん上をむく。
「私、でも産んでいいの?」
「もちろん。」
俺の答えを聞いた李那はもう先程までの暗い顔でも無表情でも無い。
前みたいに明るくて前向きな笑顔だ。
涙を流しながら笑う李那。
さっきのゾッとするくらいの顔も綺麗だったけど、今の顔の方がずっといい。