「あー、陸上部でーす。」
「加藤先輩から聞きましたよ。」
ほんとについさっき。
「あ、そうか。」
「慎吾、アホ。」
「うるせえ晃也。」
仲いいんだな。2人。
バレー部と陸上部って全く接点なさそうなのに。
「仲良くなったきっかけ知りたそうだな。」
「え…」
「普通に顔に出てるぞ。チビ。」
黒田先輩なかなか酷くないか?
一応初対面ですよね?
「はあ…慎吾が一人でいたところを俺がガンガン話しかけたの。」
あ、俺と李那みたいなもんか。
「同級生に中矢いるだろ。」
「はい!」
「それのセンパイ。俺。」
淡々とした人だな。
多分走ってる姿はカッコイイんだろうなあ…
李那の走ってるところとか裕さんが走ってる姿とか、見ててかっこいいと思ったから…
先輩ってだけでカッコイイんだろうなあ…
「黒田先輩、カッコイイっすね…」
「「は?」」
先輩達が引いた顔を俺にむける。
あれ、もしかして俺、口にでてた?
…そうみたいだな…
引かれてる…
「更科蒼空だな。
覚えた。」
「あ、りがとうございます…?」
「ん。」
李那のことも、知ってるのかな…
「如月…」
「李那?知ってるぞ?
うちのエースだったからな。」
やっぱり知ってたんだな…
「なんならあの大会で走ってるの見てすげえなって思ったからな。
スピード落ちてねえし、度胸座ってるわ。」
「ちなみにこいつ、陸上部部長。」
部長さんが褒めるくらいなんだから本当に凄いんだろうな…
「李那、膝とか弱いのにあんなに出来るんだからすげえよ。」
膝が弱いのも知ってたんだな。
流石部長さん。
「こっちはこっちで腰やらかしてるジジイだけどな。」
隣から先輩が笑って背中をバンバン叩いている。
…冗談ではないのが黒田先輩の顔から分かる…
「うるせえよ。椎間板ヘルニアが。」
…あ、加藤先輩も腰やらかしてるんだ。
椎間板ヘルニアなのによくバレーやってるよな。
だからいつも湿布貼ってるのか、納得だ。
「更科、今日練習休みな」
「あ、はい。
連絡回しときます。」
LINEで言えばいいのに、なんで直接言うんだ。
自分でまわそうとしないのが加藤先輩だ…
「更科、またな。」
黒田先輩と加藤先輩は俺に背を向けるとヒラヒラ手を振って3年の教室に戻って行った。
俺は2人を見送ると自分の教室に行く。
扉を開けると窓際一番後ろにある空席。
今はもう居ない李那の席だ。
主の居なくなった席は寂しそうにぽつんとある。
何となくその席に近づいてみた。
…落書き…
李那らしいや。
“蒼空と海澪と裕くんと私でずっと仲良くしてたいなあ”
“まだ、生きたいなあ。”
“生きてまだまだ楽しいこといっぱいやりたいんだー!”
…李那の本音。
こんな近くにあったのか。
“いつまで苦しめばいいんだろう。”
“早く開放されたい。”
“助けて。”
端っこに小さく書かれた李那の字。
心の底に溜めてあった本音。
…だと思う。
李那がいた時も見ていたはずなのに。
なんで今更気づくんだろう。
…李那が居る時に気づくべきだったのに。
こんなにわかりやすく本音が書いてあったのに…