「今日は、李那のお見舞いにって言って、その子が来てくれるんだ。」
「俺ら邪魔なんで帰りますよ?」
「いや、いて欲しい。
俺1人だと暴走しそうだから…」
ちがう。
本当はあの子が怖いんだ。
桜が。
ーコンコン…
「どうぞ。」
ノックして入ってきたのは桜。
…と椿。
双子の、1つ下の後輩だ。
椿は普通に李那を憧れとしていた。
桜も、憧れではあったと思う。
「如月先輩…」
「ご無沙汰してます…春川です…」
ほんとに同一人物かと言うくらいにしおらしくなった桜。
「如月先輩、また指導してくださいよ…
なんでっ…なんでっ…先輩がこんなことにっ…」
「裕先輩が付いていながらどういうことなんですか?!」
俺に詰め寄る桜。
やっぱり桜の憧れは李那だったんだ。
「私がっ!言えたことじゃないけど!
李那先輩が尊敬する先輩でした!
裕先輩も勿論憧れでした!陸上のトップ2でしたから!
私はっ!李那先輩を目標に今まで頑張ってきてたんです!」
「桜!落ち着いてっ…」
「お姉ちゃんだって、言いたいこといっぱいあるでしょ?!」
「…」
椿は李那を見る。
「お姉ちゃんは…李那先輩を心の底から尊敬してました。
だから李那先輩と偶然であった時も嬉しそうにしてました。」
桜はフルフル震えながら俺を睨みつける。
「…確かに裕先輩が好きだった時も、ありました。
だけど、あの時李那先輩を傷つけてから思ったんです!
私が1番好きなのは李那先輩だって!
この人だけは傷つけちゃダメだって!!」
桜はこれでもかと言うくらい俺の肩を揺する。
ほんとに…李那を大事に思ってくれていたんだな…
「…なのに…どうして…
裕先輩が付いていながら、こんなことにっ…」
桜は床に崩れて泣き出してしまった。
「ごめん、桜、椿…」
「「…」」
俺が、もっと頼りがいのある男だったら。
もっと李那の話を聞き出せていれば。
もっと、寄り添って相談に乗ってたら。
こんなことにはならなかったかもしれない。
「俺の、責任だ。」
李那の心にちゃんと寄り添っていなかったから。
もしちゃんと寄り添っていたらこんなことにはならなかったかもしれないな。
「…裕先輩は、李那先輩が好きですか?」
「もちろん。」
「…どこが好きなんですか?」
「…」
沢山ありすぎて直ぐに答えられない。
「いっぱいありすぎて、何からいえばいいかわからない。」
「…そうですか。
私は先輩の走っている姿が好きです。」
「…」
「李那先輩の走っている姿が好きなんですっ…
なのになんでっ…
なんで先輩みたいにいい人がこんな難病に…」
俺だってそれが知りたいよ。
何事にも一生懸命で優しくて素直ないい子がこんな大変な目に遭わなきゃならないんだ。