難病が教えてくれたこと

やっぱり李那は優しい。
悔しくてしょうがないはずなのに…
「裕くんもね。」
「は?」
「約束、忘れたわけじゃないよね?」
…あ。
翔くんとの事か。
「うん、覚えてる。」
サッカーするって約束したもんな。
「なら良かった。
さっき翔くんのおうちから電話あってね、手術成功したんだって。」
おお、よかった…
成功したんだな…頑張ったな、翔くん。
「しかも電話は翔くん本人からでした。」
「まじ?」
「うん。」
李那は俺を向いてニッコリ微笑む。
「早く裕にいとサッカーしたいって言ってたよ。」
翔くん…
元気になってよかった。
小児がん克服出来たんだな。
手術の怖さも。
李那もずっと気がかりだったはずだ。
本当によかった。
「良かったな、李那。」
「うん。よかった。」
「如月…」
「うるさいわよ、柊」
李那はビシッと柊の顔に人差し指を向ける。
瞬間、柊は黙る。
李那はにっこり笑うと勉強会を再開した。
柊には基本のことをつらつらと。
俺には少しレベルアップしたことを。
「…なんでこんなにアホなの?柊…」
…恐らくとんでもなく馬鹿なんだろう。
流石陸上で入ったやつだ。
高校は違うけど…わかる気がする。
陸上馬鹿。
「えー?俺、かなり頑張ってるんだけど?!」
…柊的には一生懸命だもんな。
大会とかで見るような顔で問題解いてるけど…
…やっぱり向いてないんだろうな。
李那にこれ以上させるには無理がある。
李那もこめかみあたりがぴくぴくしてるから。
…怒ってるし。
「このくらい解けなくてこの先やって行けるのかしら。」
「…えー…」
「…卒業出来るのかな?柊?」
…あー。
卒業出来なさそう…
「俺、いつもテストで補習に呼ばれてる赤点組だぜ!どうだ!凄いだろ!」
開き直んな。
更に李那が怒るだけだぞ。
「あら凄い。とんでもなくおバカなのねえ〜」
怒ると口調が変わる。
これは…うん…柊、ご愁傷様…

「ー…何とかなった…」
とりあえず提出物を終わらせ、一段落した俺ら。
李那は時間を確認し、俺らに向き直る。
「もう7時だけど、大丈夫なの?
特に、茉希と沙良。」
「えっ…」
「あっ…」
…あー、忘れて勉強してたパターンか…
なんだかんだ言って真面目だもんな、この2人。
柊よりは。
「そだね。帰らなきゃ…」
「じゃあこれでお暇するよ!ありがとう李那!
また遊びに来るね!」
李那も立ち上がり松葉杖を着きながら下に降りていく。
ゆっくり、慎重に。
俺もあとを追いながら2人を見送る。
「また遊びに来るね!」
「…遊びに来るって言うより勉強しにでしょうが。赤点とったら許さないよ。」
「「うん!わかった!」」
茉希も沙良も笑顔で李那に手を振る。
李那も久しぶりの笑顔で2人に手を振った。
…それにしても…
「李那、なんか痩せた?」
「え?」
「ほら、なんかちっちゃくなって…」
「あぁ…多分ご飯あんまり食べなくなったからだと思うけど。」
…ん?
ご飯食べなくなった?
…それって大丈夫なのか?
「病院には倒れた時だけでいいし、とりあえず今は大丈夫だから行ってない。
呼吸もこれがあるから何とかなってる。」
呼吸器を指さしながら李那は冷めた顔で俺を見る。