「はい、確か如月さん、みかん好きだったよね?」
…やっぱエスパーなの?
「ありがとうございます…」
でもみかん好きだから貰う。
まさかみかんジュースが出てくるとは…
恐るべし…
「ねえ…」
「なんでしょう?」
「結婚して…」
「はい、幸せです。」
言う前に答えられてしまった。
まあ、聞きたいことと多分同じだったしいっか。
…幸せなのか。
いつか私にもそう言える時が来るのかな?
「如月さんにも、あるはずですよ。
幸せだなと思う時が。」
私の、幸せ…
裕くんやみんなと笑い合う時間…
…それを幸せとよんでいいのかな?
みんなにとっては当然のことなのかもしれないのに…
「…貴女が幸せだと思ったらそれが幸せだよ。」
…たまにはまともなこと言うじゃない、くそ医者の癖に。
「…そっか。」
「さあ、僕はもう行くよ。」
…なんのために来たんだよこの医者。
「キミが、生きたいと思ったら僕はそれに協力してリルゾールを与えるだけだ。」

その薬が今、私の体を生きさせてくれてるからね。
「…うん。」
私を担当してる医者は手をヒラヒラさせながら病院内に戻っていった。
私はそのまま、その場に残る。
…幸せならいっぱい裕くんや、海澪達に貰ってるからなあ…
楽しい、ことの方が多いけど。
【如月李那side END】

【中矢裕side】
「よっ、李那。」
「やっほー」
李那の病室に入っていつものように喋る。
今日の李那は比較的穏やかだ。
最近テンションのあげさげが激しいから心配だったんだ。
思ってみれば李那の心の心境なのかもしれない。
李那にとって心の逃げ場がない病院。
だから俺に気持ちをぶつけることで落ち着いていたんだ。
「なんか今日はご機嫌だな。」
「そう?」
「粗方、みかんでも貰ったか。」
「やだ、エスパー?」
…ビンゴかよ。
「医者にみかん貰った。」
あー、あの医者な。
なんだかんだ李那の面倒よく見てくれてる。
「李那、今日は何食べた?」
これを聞くのも日課。
李那は痩せた。
毎日見ててもわかる。
少し、痩せた。
「みかん。」
「ビタミンかよ。」
「後翔くんから貰ったわたあめ。」
あ、あの子か。
5歳の男の子。
小児がんだっけ。
「なんでわたあめ?」
「今日なんか来てたの。お祭りの屋台みたいなの。」
たまに来る移動祭りみたいなやつか。
ーコンコン…
「はい?」
「しつれーします…」
…この声、翔くんか?
「あ、裕にい…」
「どうしたの、翔くん。」
翔くんにはいつもの元気がない。
流石の李那でも何かを勘づいたらしい。
「僕、死んじゃうのかな?」
親と医者の話でも聞いてしまったのかな…
「死なないよ。」
「…李那ねーちゃん…」
「おいで?」
李那は子どもが好きだ。
特にこういう小さな子が。