約束の9時。学校の裏に行く。
母に、天文部の仮入部で夜に学校に行くというと、とても心配していたが、娘が新しい学校に馴染めて良かった。という気持ちの方が強いようで、笑顔で送り出してくれた。

学校の裏には、凛ちゃんとイケメン二人組がいた。暗くてはっきりとした顔までは見えなくとも、底知れぬオーラを感じる。

『空!良かった。忘れてたらどうしようかと思ったよ〜!』

そして、15分後くらいに走りながらつむくんが来た。

『まじ、ごめん!!母ちゃんが何かうるさくて…!』

『まあ、お前が遅れるのはいつもの事だしな。』

『じゃあ、全員揃ったし行こうか!って、思ったけど、まずは自己紹介が先かな?僕が、綾目涼多(アヤメリョウタ)。』

『俺は谷山海人(タニヤマカイト)。よろしく。』

一瞬ドキッとした。
なぜなら、後者の彼の名は、私がずっと探している人と同じ名前だったから。
でも、苗字は違うし彼はもっと大人しくて優しいくて、こんなキラキラした男の人ではなかった。こんなに無愛想でもなかったし!

『相川 空です。よろしくお願いします。』

『ん、じゃあ行くか。』

私達は、学校の裏の非常用階段から屋上にのぼった。てっきり山とかに登るのかと思っていた私は驚いた。それより…、

『どうして、普通に入らないの?』

私は気になって、隣を歩いていたつむくんに聞いた。普通なら昇降口から入るだろう。

『あー、普通に入ると警備員の人に怒られるからな。』

『え!内緒なの?』

『そー、人数足りなくて、まだ部じゃないから。』

それで、私を誘ったのか。てか、夜の学校に侵入するって…。緊張してきた。

『後、何人必要なの?』

『えっと…2人かな?』

なんだ、私が入っても変わらないじゃん。
凛ちゃんに入ってもらいたいけど、チア部なんだもんね…。てか、部活になったら入らなきゃいけないじゃん!そうだ、私は入らないんだから!

『そうなんだ…大変だね。』

『ん?まあ、別に部じゃなくてもこうやって活動出来るから良くね?って感じ!』

それ、良くないと思う…。

『おい、そこ2人。あんまでけぇ声で喋るとバレるぞ。ほら、後少しなんだから。』

『ごめんなさい…!』

そっか、私達は内密なんだった。
なんだか、悪いことしてる気分だな。
悪い事なのか…、

『ついた。』

4階分の階段を上ると、屋上についた。
案の定、星なんか見えない。
そうだよね、だってここは都会の中心だもん。星の光なんか、ビルの明かりに負けちゃうよね。

『星なんか見えないじゃん…。』

私は小声でそう言った。

『え?ああ、そっか。転校生だもんな。』

谷山君が、時計を見ながらそう言った。
え?転校生だもんな。って何?関係ないでしょ。

『あと、5分くらいだろ。ちょっと待ってろ。』

そう言って、天体望遠鏡やら何やらを設置し始めた。こんなのあっても…。

『あ!消えるぞ!』

つむくんが叫んだ。私は何が消えるのか分からなくて、つむくんの指さす方を眺めた。

『え?…うわぁ!』

どんどんこの東京の夜景が消えていく。
そう、皆が電気を消してるんだ。

『何で?何で?』

『さー、ちょっと前から節電?か何かで月曜日と金曜日のこの時間、つまり3時間は都内の電気を消すっていう活動が始まったんだ。まあ、会社の電気とかはあんまり消せないから、出来るだけって感じだけどね。ほら、これで星が見えるよ。』

綾目君がとても丁寧に説明してくれる。
上を見ると、とても綺麗な星空が広がっていた。まだ、所々明るいから、北海道程じゃないけど、それでもこの夜空を私はとても気に入った。

『綺麗…。』

『うっひょー!テンション上がるな!
こんなに綺麗な星空って最高!!』

『つむ、うるさい。』

『凛ちゃんも好きだろ?星空!』

『あんたよりはね。』

本当に、凛ちゃんとつむくんは仲良いなぁ。
そんな二人の会話が私は既にとても好きだった。凛ちゃんもこんな事言ってるけど、多分つむくんのことが大好きだと思う。
だって、2人ともキラキラした笑顔だもん。

隣で座って見ていた谷山君と目が合う。
さっきまでは全然見えなかったけど、目が暗闇に慣れたのか少しずつ見えるようになってきた。吸い込まれそうなくらいに綺麗な谷山君の目に、何故か既視感があった。

『なぁ、どこかで…。』

『海斗!あれ、見せてよ!天体望遠鏡!』

谷山君が、小さな声で何かを言おうとしたのは分かったが、つむくんの大きな声でかき消されてしまって何も聞こえなかった。

『谷山君、何か言った?』

『あ、ごめん。何でもない。
あと、海斗でいいよ。』

『あ…。分かった。』

私は少し考えた。だって、私の中で、海斗って呼べるのは彼ひとりだから。海斗君でいいか。

『二人で何話してるの?』

綾目君が私と海斗君の間に覗き込んで来た。
私は分かった。彼は、覗き込む癖があるようだ。この綺麗な顔面でそんな癖…女の子を何人ときめかせて来たのだろう。

『別に。名前でいいよって話。』

『あー、なるほどね。俺も、涼多でいいよ。』

『分かった。』

『俺は、空でいいか?』

『う、うん!』

何だか海斗君に空って呼ばれると、少し変な気分になる。まるで、彼に名前を呼ばれているかのような…。

早く君に会いたい…。

『なぁ!海斗、あの星何?』

つむくんが天体望遠鏡を覗きながら、海斗君に聞いた。海斗君は星に詳しいのかな?

『あれはアンタレス。』

海斗君が、つむくんが聞いた星の名を答える。星に詳しいなんて、本当に彼に似ている。
アンタレス、彼が教えてくれた星の一つだ。

『さそり座の星?』

私が、海斗君に尋ねる。

『え!空ちゃん、星詳しいの!?』

皆がとても驚いた顔で私の方を向いた。

『小さい頃に教えてもらったの。』

『出身地、北海道だっけ!!』

『つむくん、よく覚えてるね。』

『北海道って、星が綺麗で有名だよな。
俺も1度でいいから見てみたいわ。』

海斗君、北海道に来たことないんだ。
彼から少し遠ざかった。まあ、普通に考えれば、私に会ったら向こうも気づくか。
私は少しだけ、彼に期待してしまっていたのかもしれない。心の中でちょっと残念がっている自分がいる。

『あ、もう11時30分だ。そろそろ、お開きにしようか。』

『そうだな。』

『で?空ちゃん!天文部入る!?!?』

あ、そうだった。私は部活で来てたんだった。どうしよう。入らない気でいた私だけど、この星空を見たら、少しだけ入りたいという気持ちも出てきてしまった。でも、女子怖いし…。

『凛ちゃんはどう思う?』

私は分からなくて、凛ちゃんに聞いた。

『えー、私?んー、入りたいなら入ったらいいと思うけど…。』

『あ!女子か!?確かに!涼多と海斗、人気あるもんな〜!』

『ならさ、内緒で入れば?』

『どういう事だ!涼多!』

『どうせ、部じゃないから部室とかもないし、活動もあんまりないから、俺達が大声で言わなければ空ちゃんが天文部に入ったってバレないよ。それならどうかな?』

『え、でも…。』

確かに、その方法なら女子にはバレないけど。

『まぁ、天文部は来年で解散だしな。
星が好きなだけなら、入って損はないよ。』

『確かに!そうだな、海斗!
どうする?空ちゃん!』

『…私も天文部に入りたい。』

『おお!まじで?やったー!!
天文部の部員が一人増えたぜ!』

『おい、つむ。空ちゃんは、内緒で入るんだからな?嬉しくて色んな人に言ったりするなよ?』

『まかせろ!』

任せられない…。
でも、活動は楽しみになった。

『てか、部活じゃないのに、部活に入った扱いになるの!?』

『あ、いや?一応、俺達は他の部活に籍を置きながら天文部として活動してる。』

『え!そうなの?』

ええ。じゃあ、天文部に入る意味って…。

『ちなみに、つむはバスケ部だよ。』

しかも、ばりばり運動部じゃん。

『僕達は、囲碁部。活動日数はゼロ。幽霊部員だから。』

幽霊部員制ありなんだ。てか、なら私も囲碁部に入ればよかった。

『空ちゃんも、囲碁部に入れとくね。』

『ありがとう…。』

私、これで合ってるのかな…。いや、絶対間違ってる。まあ、星は綺麗だからいいか。
週に2回、天文部としての活動が始まった。











君は一体どこにいるの?
私は貴方に会いたいです。
2人で海辺に寝っ転がって星を見たね。
2人だけのプラネタリウムが私は大好きだったよ。