「はーい、夏休みが終わって久しぶりの友達と話したいのも分かりますが、聞いてくださーい。今日から2年C組の仲間になる、転校生の相川 空さんです。自己紹介どうぞ。」

おじいちゃんみたいな先生が、私を紹介する。好き勝手に話していた皆の視線が私に注がれる。とても緊張する。

『相川 空です!北海道から来ました!
よろしくお願いします!』

うん。緊張していた割には良い挨拶なんじゃない?皆の反応は…っと、

「北海道?すげー遠いじゃん。」
「可愛い!!」
「あんまり田舎の子って感じじゃないね〜。
髪色可愛いし。」

うーん。なかなかなのかな?
髪色、染めてよかった〜!

昨日、色々考えた結果、少しでもお洒落にしようと緊張しながら髪を染めに行った。
茶髪にしようと思ったが、思っていたより色が抜けて、ミルクティーくらいの色になったけど、結果オーライかも。

「えっと、席は…斎藤の隣が空いてるな。」

指示された席は、教室の一番後ろ。
隣の席の男の子は、元気な感じの少しチャラい人だった。指示された席に座ると、その人が話しかけてきた。

『えっと、空ちゃん?よろしく!
俺、斎藤 紡(サイトウ ツムギ)!つむって呼んで!』

最初っから空ちゃん呼びって…。
でも、彼の嘘1つなさそうな眩しいくらいの笑顔を見ていると、緊張が少しだけ緩んだ。

『よろしく、つむくん。』

『こちらこそ!』

彼はまたニコッと笑った。ちらっと見える八重歯が可愛らしさを感じさせた。

キーンコーンカーンコーン

朝礼が終わるチャイムがなる。
先生が終わります。というと、また教室がうるさくなる。昨日のサッカー中継の話をする人、新作のコスメがどうのと話をする人。
知り合いなどいない私はぽつんと辺りを見回していた。話し掛けるか迷っているのかちらちらと私を見る人はいるけど、人見知りな私は話しかけられずにいた。

そんな中…

『ねぇねぇ!私、最上凛(モガミリン)。
えっと、相川さん?面倒だから空でいい?
私は好きに呼んで!』

話し掛けてくれる子がいた。
可愛らしく、こちらも人気者という感じの女の子だった。そして、コミュ力の神様だ。

『よろしくお願いします。
凛…ちゃん?』

『こちらこそ!ちなみに、そいつの幼馴染ってやつ!』

彼女が指差したのは、つむくん。
つむくんと凛ちゃんは幼馴染なんだ!
同じクラスって羨ましいな…。
私も、そんな日があったのかな。
心が急にもやもやしてしまう。嫌だ。

『ところで、何部に入るの!?』

凛ちゃんがまたニカッと笑う。
彼女の笑顔にも何だか力を感じる。
さっきのもやもやが一気に晴れる。

『え…!多分、帰宅部かな?』

『だめだよ〜、うちの高校、1年生は強制だから。私はチア部!チア、やる??』

そんなの初めて聞いた…!部活なんて入ったことが無い…。チアなんて絶対無理!

『えっと、チアはちょっと…。』

『そうか〜!残念!
時間はあるし、じっくり決めたらいいよ!』

『え!空ちゃん、部活決めてないの?
ならさ、天文部入らない?』

『ちょっと、つむ!天文部はさ…!』

凛ちゃんが焦ったような顔になる。
天文部はダメなのだろうか…。
しかし、私は天文部に興味を引かれてしまった。

『天文部…?』

『そう!週2回だし、めっちゃ楽だろ?』

『いいかも…私、星好きなんだ。』

『まじ?今日、仮入来なよ!』

『ちょっと、つむ!天文部にはあいつらがいるじゃない!ほら…』

「きゃー!夏休み明けの海斗君と涼多君、最高!!おはよ!」
「海斗君かっこいー!!」
「涼多君素敵ー!!」

急に廊下がうるさくなる。
凛ちゃんがため息を付いた。

私は気になって、ちらっと廊下を見る。
そこには二人のイケメンな男の子がいた。

『あ!海斗!涼多!ちょうど良かった〜、転校生の空ちゃんがさ、天文部に入りたいって!』

つむくんが、廊下の二人に声をかける。
え!待って、彼等と一緒の部活は…!

女の子の目線が一気に私に注がれる。
凛ちゃんが慌てて私に説明する。

『空!ごめん。ちゃんと説明してなかったね…!天文部はあいつらがかなり遅くに適当に作った部なの。遅かったから、他の子は入れなくって…ほら、うちの高校、部活強制のくせに1年間は辞められないから…。』

なるほど…。つまり、今、天文部に入れるのは私だけってことか。嫌だよ!!
だって、絶対妬まれるじゃん!!

『どうせ、つむが無理やり入れさせようとしたんじゃないの?』

『ちげーよ!天文部いいなって言ってたし!』

二人組の一人、背が高い金髪の男の子が呆れたような声でつむくんに言った。
うん、いいよ!つむくんには悪いけど、そういうことにさせて…。

『で、その子は?』

二人組のもう一人、黒髪の人が、私のクラスの教室を見渡す。金髪の彼とは違って、無愛想な感じだし、耳にチラつくピアスが怖い。

『この子!空ちゃん!』

つむくん!やめてくれ…。迂闊に良くもわからず、天文部いいなとか言った私も悪いけどさ!

『えっと、相川 空です…。』

皆の目線が怖い。私は俯きながら答える。どうしよう、転校初日に体育館裏に呼ばれたりとかしたら最悪だよ…。

『そうそう!でさ、今日のやつ!
空ちゃん、仮入って事で一緒に行ってもいいよな!』

『僕はいいけど…えっと、空ちゃん?空ちゃんは平気なの?』

金髪の人が、私を覗き込んで聞く。
綺麗な顔がとても近くに来て、びくっとしてしまう。平気じゃない、平気じゃない!まず、今の状況が平気じゃない!!

『平気じゃ…!』

『おいでよ。仮入部とかはよく知らんけど、今日の星空、絶対綺麗だから。てか、凛も来れば?』

黒髪の方の彼が提案する。
待って、私、平気じゃないって言おうとしたのに…!でも、凛ちゃんが一緒なら…!

『は?あたしは…!』

私は思わず、凛ちゃんの腕を掴む。

『…はぁ、分かった。私も行くよ。』

凛ちゃん!!転校して早々に迷惑かけてすみません!!でも、凛ちゃんがいい人で良かった…。

『決まりな!じゃ、今日の9時に学校の裏な!』

つむくんがニカッと笑う。
凛ちゃんにそっくりだ。
というか東京の夜空でも、星って見れるのかな?確か、都会の夜空はあまりってお父さんが言っていたような…。

とりあえず、私は疑問を抱えながら参加することにした。そうだ、仮入部だけして、本入部の時は他のに入ればいい。

それに私には、部活に時間を使っている時間はない。彼を探さなければならないのだから。















私は、何故気が付かなかったのだろう。
彼はとても近くにいた。
ずっと携帯をいじっている無愛想な彼こそ、私が探して求めている彼だったのに…。