冬夜の仕業だが、ここで会ったのは私だ。
そう思われても仕方がない。肩を抑えたまま、
気付かれないように周囲に視線を彷徨わせる。
「…仲間がいるの?仲間はどこ?」
言う訳がない。一緒に仕事をしていても基本は個別。
能力者は―――駒。被害を最小限に抑える為、危ない目に合えば切り捨てる。捕まっても仲間や組織について口を割ることは絶対にない。
だからこそこれまで
情報が漏れることはなく生きていくことができていたのだ。
分かってて聞いているこの男は何がしたいのか。
「…あれ?一人?もう一人いると思ったんだけど。寿命の抜き方がうまいのか昼間人が多いときに抜いてるのかな。夜中に急変してころっといっちゃうんだよね」
へへっと何がおかしいのか笑いを零す男。
笑っているがその目は――さすが能力者。冷たさは消えない。
「こんな時間にここにいる君は――まだその力は無いのかな」
一歩、脅すように近づいてきた男に
私は同じように一歩、下がる。
「さぁどうしようか」
男の視線が宙を動く。
「僕たちはお互い命の奪い合いはできない」
ゆっくりと私を見つめる男は、
暗闇の中で口を動かす。
「…となると力勝負になるけど。絞殺か…んー一応医者の卵としてそれはしたくないんだけど。力つかえねーのは面倒くせーな。綺麗に終わりたいのに」
どうしよう。逃げ場は完全に失った。
逃げ道は目の前のこのオトコを倒して行くしか方法はない。
だけど、倒せるとは…思えない。
距離を詰められてしまえば負ける。それだけはわかる。
同じ力を持った能力者同士。
白命がどのような教育を受けてきているのか黒命の私は分からないけれど。
同じであればそれなりに体術も身につけているはず。
捕まるわけには行かない。
実際に見たわけではないが
何度となく捕まってしまった人間の話は聞いた。
…行き場を失った駒が最後にできることは、1つ。仲間を危険に合わせないよう黒命の情報を漏らさず逝くこと。
どうにかこの場から逃げるすべを考えながらも
諦め終えることも頭をよぎってる自分に心の中で笑いながらオトコを見据える。
と、ふっ、と空気が緩んだ。
「まぁいいや」
私から視線を逸らした男はくしゃくしゃと髪の毛を掻き乱す。
「どーせ助からない患者だったし。逃がしてあげる」



