固まったままの私の顔にまた男の顔が寄せられる。
「”患者”なら、
どうして”タグ”していないのかな?」
するっと撫でられた手首。そこにあるはずのものがないことに、
医者は手首を拘束した時から気付いていた。入院している者ならみんな知っていること。
だが、
桜夜は入院どころか、病院にすら踏み入ったのは今日が初めてだ。
そんなこと――
知るはずがない。
にやっと医者が笑ったのと、桜夜が動いたのは同時だった。
「わっ、う」
拘束されていない反対の腕が動き医者に”痛み”を与える。
くるっと振り向いた桜夜はそのまま服ごと胸を握る。力を籠め――男は、呻いたが動かない。暴れもしない。
笑みが深くなる。
「―――無理だよ。俺の命は奪えない」
馬鹿にしたような声が落ちてきた瞬間、
両肩を捕まえられて、そのまま後ろへと力任せに突き飛ばされる。
ガンっと鈍い音がして窓に叩きつけられた。
「、」
声を出さずに背中に走る痛みに耐える。
よろけながらも、医者と背後の窓から距離を取る。
「能力者同士は命の奪い合いはできないって知らなかった?」
馬鹿にしたような笑み。
胸元を正しながら、立ち止まる。
「…白命」
小さく呟いた声でも届いてしまう。
「こんばんは。いや、初めましてかな。黒命さん」
男の目は真っ直ぐ私を射抜く。…命を抜けるなら抜いて逃げようと思った。
白命なら、ひとまずは安心だ。
向こうの命を抜くこともできないが、
逆にこちらが抜かれることもない。
機関さえ――呼ばれなければ。
「…最近変な死に方するって患者さん多いんだけど、君の仕業?」
お互い命の危険はないと分かってはいるからか、向こうは呑気に話しかけてくる。
だが警戒は解けない。”力”は使えないけれど、
物理的衝撃で殺すことは可能だから。
向こうの言っていることは
冬夜の仕事のことだろう。
やはり――気付かれていたか。ま、黒命に敏感な白命が気付かないと言う方がおかしいのかもしれないけれど。
この男は若いがもしかすると上の方の人間なのかもしれない。



