こうなって、困るのは誰か。
・AM.08:12・
浮上しつつある睡眠。
意識の向こうで、ハイヒールの音が近づいてくることで内心察しながらも布団を被り直す。
ノックも無しに勢い良く開けられるドア。
ハイヒールの音からして
入ってきた人物はあの女のはずなのに。
らしくないなと思いつつも、
目を開くことはしない。
「起きてください、大変です!」
いつものような起こし方ではない。
息を切らせ、近寄ってきたかと思うと体を揺らし始める。
「起きてください、和成さんっ、」
「起きてください!」
「…機関から、出頭するよう通達がきました」
「……は?」
ガバッと目を開け女を見つめれば、
らしくない焦った表情で見下ろしていて。
「機関…?」
寝起きで掠れる声で聞き返せば、
息を整えるために洗い呼吸を繰り返していた女も。
一度呼吸を飲み込んだ後、
同じく掠れた声で「はい」と答えた。
その声は震えていて。
「30分以内に機関本部に来るように言われています。長は本邸から直接本部に向かわれ立ち会うと。急いでください、時間が…!」
早口で言われ寝起きの頭は状況を理解できない。
「待って、何で俺が機関に、」
「説明は機関に向かいながらしますから、着替えも車の中で、急いでください」
引っ張るようにベッドから引き摺り下ろされ、
そのまま走り出す。
状況が全くわからない。
一つだけ分かったの自分が機関に出頭要請を出されているということ。
そしてそれは、機関の監視下にいる自分たち、
白命がなにか機関の意向に背いた際に出されるものであるということ。
…白命が何よりも避けたいもの。
出頭要請を受け、戻ってきたものは少なく、
戻ってきたとしても見るに堪えない姿をしていたということ。
「…どうして、俺が…?」
車へと急ぐ中、零した声は、
誰にも届かない。前を行く女にさえ。
機関に入ったことはある。1度だけ。
あれは小学生に上がる少し前だったか。
本部の人間に連れられて訪れたここ。
あのころもわけがわからなかったな、と
車をおりて目の前に現れた建物を見ながら思う。
わけがわからなかったが、地位ながらにもここの人間が自分たちのことをよく思っていないことも、
隙あらば殺そうという勢いで殺気を含んだ視線で監視してくることもわかっていた。



