「専務…!」
「遅くなってすまない」
ゆっくりと喪主である妻の前へと辿り着いた頃。
やっと人物の役職が分かった。隣にいるのは秘書か。
。
引き連れてやってきたかと思えば、ハンカチで涙を抑える故人の妻の肩へと手を置く。
「この度は…」
「まさか、専務さんが来てくださるなんて…主人は喜んでると思います…!」
泣き叫ぶように言い、そして流れ出る涙をハンカチで拭く妻。
「最期の最期まで…ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした…!」
「頭をあげてください」
「…まぁ綺麗な場面ですね。亡くなった平社員の為にわざわざ出向く専務。ですか」
「仕方なく来たようにしか見えないけど」
「奇遇ですね、僕もそう見えます。そもそも会社が殺したようなものでしょう」
冷めた視線を投げながら小声で言う夕夜。
「それでも遺族は強く出れない。亡くなったのが会社。そのせいでイメージが悪くなった、顧客が減ったなんて言って賠償金巻き上げることもできるしな」
心の中で思っていようが直接口に出すことはできないだろう。
相手は大手の企業。損害賠償にいくら請求されるか分からない。
「…可哀想に」
「奪った僕たちが言える立場ではないですが。……それより」
スッと、メガネのアームを元の位置に戻して夕夜が呟く。
「気になりますね」
真っ直ぐ見つめる夕夜を一瞥して、冬夜は笑う。
「そ?俺は最初からこれを見たくて寄ったんだけど」
同じようにアームの位置を戻す冬夜。
…最初からこれが狙いか。
やっと、意図が掴めた。
「…仕事外じゃないですか」
まずは仕事をすることが先だ。
「…ボーナスだよ」
「近づけますか?」
「あぁ。カメラは…」
「この部屋には設置されていません。入口とロビーにはありましたけど…」
そのためにメガネをかけてきたんでしょう?とメガネをつつきながら言えば。
口角を上げた冬夜。
ちょうど手を合わせ終わった所で。
専務がちらっと時計を見たことに
遺族は気づいたのか気付いていないのか。
「では、これで」
「本当にありがとうございました」
頭を下げる遺族に対し、足早に立ち去る男。
「…さようなら」
入って来た時と同じように。
出て行く専務を頭を下げ見送った夕夜が発した言葉は。
帰宅を急ぐあの男には届かない。
時計を見れば、いい頃合いだ。



