「知ってますよ…」




きょろきょろと辺りを見渡す夕夜。


ちょうど、お経が終わり、参列者たちが焼香を上げたり、故人の顔を見に行っている所だ。


「桜夜さんも、優しいですよね」

顔を見た瞬間、泣き崩れる人たちを見ながら、夕夜がこぼす。




「こうして最後、顔を見てお別れができるように体を綺麗に遺した」

きっと、あの人たちが見た顔は自分があの日最後に見たあの顔なのだろうと冬夜はぼんやりと思う。



できれば。

黒命だと、跡はできるだけ残さない方が賢明だ。




あのおじさんは、ありがたいことに自殺をしようとしてくれていた。




命を抜くだけ抜いて、



貰って上から落としておけば。

確実に自殺として処理されただろう。




黒命の仕業だと思われることもなかっただろうし、機関も動き出すことなかった。

冬夜もそのやり方の方がいいと思うし、そうするつもりだった。



だけど、桜夜が。





「言わないけど、ああいう所だけ優しいんだよな」




笑いながら命を奪う癖に。

上から落とした遺体が、どうなるかなんて。何度も見てきたし落としてきた。




高い場所から無抵抗で落ちた儚い体がどうなるかなんて簡単に脳裏に浮かぶ。



そうすれば。綺麗な形どころか、あの棺桶の蓋をあけることすらできないだろう。



最後の姿を目に焼き付けてお別れなんてできない。




それがせめてできるように、桜夜はあえて冬夜に運ばせて。



「で、満足ですか?そろそろ仕事に行きませんか」


ふぅと息をはきながら



夕夜は冬夜が動き出すよう促す。


見たいものは見れただろう。




早くこの場所から姿を消すのが賢明だ。



だが、隣は動くそぶりを見せない。



それどころか

深く椅子に腰掛け、背もたれまで使うというリラックスぶり。



「冬夜」



さすがに夕夜も嗜める。

みんな故人に集中していて後ろの自分たちには目もくれない。



だが。



これはどう見ても会社の部下だった人物の態度には見えない。

やる気なく授業を受ける高校生そのものの姿だ。


腕を引っ張られてすぐ様元の社会人らしい姿に戻される。




…これじゃあバレるのも時間の問題ではないか、と呆れた瞬間。







入口がざわつく。

故人に群がっていた人物達も一斉に入口を向いたことで、


自分たちも後ろへと視線を。




…ゆっくりと、入ってくる歳のとった男。

纏う空気が一般とは違うことを示している。





案内として来たのだろう社員の一人がへこへことしている姿に、反射的に社員としては当たり前であろう頭を下げる。




下げたところでその男は冬夜達には目もくれず、真っ直ぐと棺へと歩いて行くが。


すぐに顔をあげれば、今冬夜達がしたように今度は棺の周りにいたものたちが頭を下げている。