たった5年といつも思うけれど。



こういう人間たちにとっては

のどから手が出るほど欲しい5年なのだろう。





その時間の為に、どれだけの金が動いたのか、俺は知らない。






抜こうと思えば抜けるこの力を持っている自分。





その気になればなんてことない5年という時間を、





莫大な金を積んでまで欲しがる。

それを目の当たりにするたびに。





この力をもつ自分が、





どれほど恵まれ幸運なのか思い知る。

そして、自分たちがいなければその金も無価値だということに優越感を覚える。





能力を持った人間たちがいるからこそ、この金が命に代わるんだぞ、と。






一般社会では上の方にいれて偉そうにしているけれど、和成からすれば。



足元にも及ばない存在だから。


限られた命に欲を見せて、あがく汚い存在。







「…渡せる命にも限りがありますので」


少しは愛想笑いもできないのか。






跪いたまま、無表情で専務に答える女を見ながら、はぁと息を吐きだす。







これで今日の仕事は終わりだ。


「…専務、そろそろ移動しないと時間が…」




申し訳なさそうに。



部屋の隅で様子を見ていた秘書が専務に声をかける。





あぁ、と時計を見て、立ち上がる専務。




「これからまたお仕事ですか?」


何気なく聞いてみたことに、専務はいや、と笑顔で手を振る。





「通夜だよ」




「通夜?」


「あぁ、これから亡くなった社員の通夜があるんだ」





笑顔で言う専務。




思い出すのは先日聞いたばかりのあのニュース。そっか。あの会社の専務か。この人は。





詳しいことはあまり気にしてないから知らなかったけれど。


女を見ればもちろん知っているのか、




相変わらず無表情で見据えていて。



…こいつが知らないわけがないか。




「ったく。面倒だよ。”元”社員なのに…」

「専務っ、」

専務の失言に秘書がとめる。

「…大丈夫ですよ。ここで見聞きしたことは漏れることはありません。他言無用ですから」

笑顔で秘書を見れば、いたたまれなさそうに視線を伏せる。

「…もちろん、それはこちらだけでなくあなたもですが」




はっと固まる秘書。


能力者の顔は極力割れない方がいい。





延命を受ける者はしょうがないとして、何もしないが立ち会う者には。


にこり、わざと目は笑わずに笑顔を向けると、





秘書に恐怖の色が浮かぶ。